ラエティティア覇竜戦記 神王のゲーム (HJ文庫)

【ラエティティア覇竜戦記 神王のゲーム】 すえばしけん/津雪 HJ文庫

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国の命運を賭けた一世一代の勝負が始まる!

戦乱期、天から各国に遣わされ人々を導くとされる伝説の聖人『神王』。
ラウルス国の若き女祭司長ラシェルは、隣国の侵攻が迫る中、なぜか自国にだけ神王が姿を現さず途方に暮れていた。そこへ従者の少女を連れた流れ者が訪ねて来る。トウヤと名乗るその青年は、「俺様が神王を演じてやる」と大胆にも神王の替え玉となることを買って出るのだが……!?
気鋭・すえばし けんが放つ知謀系異世界ファンタジー戦記!!
これは面白かった!!
戦記モノといいつつも、軍記や内政モノというよりも、人間同士の駆け引き中心の権謀術数。一種のライアー・ゲームと言っていいかもしれない。何しろ主人公のトウヤからして、胡散臭さ丸出しの詐欺師紛いですからね。スリルを求める賭け事狂いで、暇さえあればギャンブルに興じる怪しい男。とはいえ、その共犯者となるラシェルも若いながら政治家らしい虚実の駆け引きに長けた人物で、いい意味で清濁併せ呑むことの出来る娘なんですよね。だから、綺麗事に流されずに不審人物であるトウヤを利用することを厭わない。
ただ、食わせ者というわけじゃないんですよね。若くして国の中枢を担うことになり、その重責を担う為に相当無理もしていて、仮面を被り辛さを押し殺して濁を飲み込んでいる。素の彼女は優しくて思いやり深く、愛嬌もあってちょっとヤンチャなくらいの行動力のある、非常に公正な人物なのである。トウヤと偽物の神王を起てるという暴挙の共犯者となったことで、彼の自由な振る舞いに振り回されながらも、重責を一人で背負い込まなくて良くなった分、だんだんと素の彼女の顔が出てくるのですけれど、これがまた可愛いし、味があるんだ。
政治家、権力者として振る舞うためにカチコチに固めた仮面の彼女よりも、むしろ開き直って自分自身を開放したラシェルの方が、よく見ると一筋縄ではいかない相当な食わせ者だったりするんですよね。その意味では、癖者の極みであるトウヤの相方、相棒としてふさわしいキャラクターでもあるわけだ。
このメインとなる二人のみならず、この作品に出てくる登場人物は、皆がみんな一筋縄ではいかないいろんな顔、側面を抱え込んだ味わいのある人物像で、非常に面白い。
軍人としてラシェルをサポートする形となるエリアーヌにしても、あっけらかんとしてあまり難しいことを考えなさそうなキャラとは裏腹に、大胆さの中に人間関係の見極めなど繊細な見る目、本質を突くような、死角からヒョイッと肝を掴まれるような鋭さとを持っていて、その鋭剣の抜きどころ収めどころのバランス感覚が絶妙なんですよね。彼女の副官や、敵方となるマグノリア国の指揮官と副官コンビといい、登場人物の造形の出来栄えが一等
素晴らしい。
その充溢した登場人物を舞台の上に乗せての物語の転がし方が、また思わず引き込まれて夢中になってしまうような意表を突かれる展開の連続で、これは正直参った。まさに、そう来たか! うわ、そうだったのか! の連続。特に、ラストのトウヤという人物の分析については、表向き通りのギャンブル狂というキャラクター像を何の疑いもなく信じていただけに、その凄絶な目的を知るとともに、主人公としても魅力も爆発的に膨れ上がった気がします。
初っ端から、明らかに神々の代理戦争の場として用意されたと思しき箱庭世界。その中で、誰か他人の意思に強いられるがまま従うのではなく、どのような結果を招こうと「決断」すること。「選ぶ」ことを尊ぶことを最初から標榜していた神王トウヤ。彼はそれをギャンブル、賭け事に重ねあわせて、「選択」するという事に込めた本当の意図を迷彩していたようだけれど、彼の「選択」への本当のスタイルが明らかになり、その目的も理解すると、彼が尊ぶ「選ぶ」ということがどれほど、この箱庭世界に衝撃を投げかけるものなのかが理解できる。
これは、先々が非常に楽しみな作品がはじまりましたよ。オススメ!

すえばしけん作品感想