IEイマジナリーエフェクト1 クリフォトの夜 (講談社ラノベ文庫)

【IE イマジナリーエフェクト 1.クリフォトの夜】 南篠豊/羽鳥ぴよこ 講談社ラノベ文庫

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空白症候群―スフィアシンドローム。枝誓館学園は、その治療困難な病気を発症してしまった10代の患者を集め治療する、病院である―表向きは。だがその実態は、スフィアシンドロームの患者が手に入れてしまう力をコントロールし、そしてある目的のために研鑽する場だった!
無燈霞は、その患者の一人として枝誓館学園へと編入することになった高校一年生。初めて他のスフィアに出会い戸惑う霞に告げられた、スフィアの目的は―神になること!?だがそのためには、学園の奥にある異界―クリフォトを攻略しなければならず…。
学園バトルファンタジー、ここに開幕!
これはまた、ヒロインの子、蘭崎千華が苦労するタイプのお話だな。主人公の霞は、詳しい来歴は不明なものの、示唆されている内容から見ても相当にややこしい来歴を辿っている。そのせいか、無燈霞という人間の外側については十代の少年としては必要以上に完成されているにも関わらず、中身の芯、基礎、根本となる部分が非常に希薄で、「命令(オーダー)待ち」なんですよね。なまじ、外側がよく出来ていて異常性を感じさせないし、判断力、決断力も柔軟性があって、基本的な自主性、積極性にも事欠かないために、彼の歪さについては本人も含めて殆ど誰も気づかないまま、物語は進行して行っている。唯一、それに気づいて危惧していたと思しき彼の師匠は、それを克服させるために、或いは面倒になったのかはわからないけれど、霞を改善目的のためにこの枝誓館学園に放り込んだ、というか放り捨ててしまったのだけれど、何の因果か、それを拾うはめになってしまったのが、彼女――千華ちゃんなのである。
この娘って、メインヒロインにしては実に珍しいキャラクターで、こういう子って言うなればメインヒロインの親友タイプなんですよね。快活で積極的で肝心な部分が繊細な性格で、その頑張りに対してどうしても報われないタイプ。この手の子は、献身的で世話好きと何かと支援してくれるのに、主体性は譲らないタイプなので、物語の焦点が主人公に集約され、主人公を中心に物事もキャラクターも動く話だと、どうしても一歩以上ハズレてしまって、働きの割に報われない立ち位置に収まってしまうという不遇型なんだけれど、本作はメインヒロインとして、何より物語を動かす原動力にして発動機が千華の目的と意思にあり、主人公の霞はむしろ彼女の目的を助けるために動く、という主体性を彼女の側に預ける立ち位置に収まったので、珍しく彼女のようなタイプが日の目を見ることに。
こういう明るくて情の厚いタイプのヒロインはホント、大好きなので、彼女みたいのがメインヒロインやってくれるというのは、やっぱり嬉しいのです。
ただ、問題は主人公の霞がその主体性を千華にまるまる預けてしまった、という点にあるのが皮肉な話。彼がここに送り込まれてきた理由を鑑みるならば、千華の目的を手助けするために彼が千華たちとチームを組んで精進する事自体は問題無いとしても、主体性、或いは目的意識そのものを丸投げにしてしまって、自分自身の存在そのものを彼女に依存させてしまったのは、彼が抱えている不具合がまるで改善されないまま、元の木阿弥になってしまった、という意味で大失敗なわけです。
今は問題無いとしても、いずれ彼の歪みは浮き彫りになり、それに直面するはめになるのが、彼に依存されてしまった千華なわけで、彼女には必然的に近い将来、この半端に壊れた完成品をリコールするか、自分自身で根本から調教してしまうかが問われる事になってしまったわけで。
ご愁傷様、としか言えませんね。
霞は、多分なかなか聞き分けないですよ。常に最善を導き出し、柔軟に目の前の困難に対処し、将来の問題を予測して対策を起てることの出来るこのタイプは、だからこそ目の前で結果が出る限り、実は前提が間違えていて根本からひっくり返す、或いは後戻りしなくては取り返しがつかない、という事を認めることも受け入れることも難しいタイプでもあるのですから。
最後の散らばった臓物が浮かぶ血だまりの中で、薄っすらと笑みを浮かべて佇む霞のイラストは、なかなか意味深な示唆を含んでいて、ちょっとゾクゾクしました。これを叩きなおすのは相当ですよ。それだけ、千華のヒロイン力、根性と気合と不屈さと前向きさが試されるというわけで、実に違和が露呈するのが楽しみなマッチングであります。

南篠豊作品感想