仮想領域のエリュシオン 003 _セルリアン・レクイエム (MF文庫J)

【仮想領域のエリュシオン 003 セルリアン・レクイエム】 上智一麻/nauribon MF文庫J

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《天使》の一件も収まり、七年の時を経て和解した冬姫と紫緒。一方の大河は、巴夜所有のアークライトに傷を付けた罰として、一週間、彼女の命令に従わなければならないという契約をすることに。原因不明のネットワーク障害を対処するため、切燈グループの本社ビルを訪れた大河と巴夜の前に、再びあのプログラム《天使》が現れる。
「―――久しぶりだね、巴夜。ボクのことを覚えていてくれたようで、何よりだよ」
《天使》の正体。それは巴夜の過去に関わる血塗られた切燈家の歴史そのものだった。破天荒なチート兄妹が繰り広げるハイブリッドバトルファンタジー、雌雄を決すための第3巻―――。
「……そろそろお別れだ、イオラ」
<……はい、さよならです>
これ、よく見るとジャケットデザインでものすごいメンチのキリ合いしてて笑ってしまったんだけれど、この感情の張り裂けそうな鍔迫り合いは気合入ってて凄い好きですわー。長らくMF文庫ってインテリジェンスを感じられないつまらん表紙が多かったのだけれど、最近ちょっとずつだけれど変わってきた気がする。女の子一人のピン立ちにしても。
さて、デビュー作としてスタートした本作だけれど、残念ながらこの3巻で幕引きと相成りました。黒幕として暗躍していた《天使》を表に引っ張り出してきての決着編。いずれ決着をつけなくてはいけない相手ではあったものの、ぶっちゃけ本当に倒すべき相手は他にいる、みたいなモヤモヤは残ってしまったんですよね。本来ならこれ、《天使》の正体と彼女が引き起こす一件はきっかけに過ぎず、本丸は大河と冬姫、そして巴夜にまとわり付くしがらみと過去の因縁との対決だったんじゃないだろうか。大河と冬姫の兄妹にしても、家と過去との精算は終わってないままでしたし、切燈グループと巴夜のオヤジのやり口なんか一片の理解の必要もない悪逆だったわけですし、この少年少女たちが本当の意味で自由をつかみとるために戦うべき相手というのは、また別に居た、という感触でした。《天使》は、暴走していたとはいえ言わば「こちら」寄りの存在だったわけですし。
涙という、家のしがらみに囚われていない、天陵兄妹の安息となり影に日向にサポートしてくれるヒロインの存在や、紫緒という天陵兄妹に近しい因果の持ち主の登場、そして巴夜という後援者にして共犯者となるべき人材の今回のエピソードといい、多分最後に至るまでのラインは概ね算段ついていたんだろうことは、端々から伝わってくるだけに、ここで終わってしまうのは実に勿体無い。うん、まさに種まきが済んできたという感触が得られるこの全3巻だっただけに、ここで終わられると欲求不満ですよ。
ヒロイン衆と、大河の関係もいい具合に煮立ってきただけに尚更に。まさか、大河の理性がこんなに弱いとは思わなかったけれど。いくら誘惑してくるとはいえ、妹相手に理性崩壊が早過ぎるぞ、お兄ちゃん! そりゃ、長らく離れて暮らしていた分、ちょっと普通の妹とは感覚違うかもしれないけどさ。
硬派に見えて、わりと気を許した女性には防御力低い事が知れてしまったぞ、この主人公。涙に対しても、えらい甘えてたし、巴夜には何だかんだと頭上がらないし。……ヒエラルキー低いぞ、こいつw
まだビジネスライクな関係だった巴夜とも、今回の一件でお互いわりとマジになってしまったり、涙については隙だらけの姿を晒して安眠できるほどの無防備な関係になってしまったり、妹とはガチでチュッチュする関係になってしまったり、と女性陣同士もお互いに意識しだして、ちょうど人間関係も面白くなってきたところだけに……勿体無い。
最初の頃はまだふわふわしていてキャラも設定も地に足がついていなかった感があったのが、巻を重ねてだいぶしっくりくるようになってきていたし、美味しく堪能できるようにメキメキ充実してきた感はあったので、次回作は大いに期待したいです。

1巻感想