未来/珈琲 彼女の恋。 (GA文庫)

【未来/珈琲 彼女の恋。】  千歳綾/アマガイタロー GA文庫

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「――私のことをいやらしい目で見ましたね、父さん?」

ある日、高校生の湊遼太郎が家に帰ると、そこには全く知らない娘の姿があった。雪音と名乗る少女( 胸ナシ)は、未来から来た遼太郎の娘だという。しかもある日、娘はふたりに増えていたのだった(こっちは巨乳! )!
プラチナブロンドで儚げな彼女・阿梨亜と遼太郎の関係が深まるのを邪魔してくる雪音。雪音はなぜふたりを邪魔してくるのか。ふたりは未来からどうやって飛んで来たのか。謎に異能に家族の絆も相まって、物語は息も吐かせぬ展開へ……!?

ちょっと不思議で温かい、第6回GA文庫大賞奨励賞受賞作。
設定は非常に面白いんだけれど、合わせるべき焦点がちょっとズレてるような気がしたなあ。
というわけで、未来から現れた自称・娘の雪音。彼女が未来から来た方法に対して、遼太郎はそれが可能だと知っているにも関わらず、あれだけ信じないというのは些か不可解。タイムマシンで来たとか、宇宙人の技術!とか、遼太郎がまるで知らない、理解できない荒唐無稽な方法なら、唐突だし信じられないのも無理は無いけれど、彼自身それが出来るのだと明確にわかっているのに、信じようとしないのは単なる現実逃避だもんねえ。ぶっちゃけ、そこに分量を割いている場合でもなかった気がする。これって、家族愛がテーマなんだろうし。
面白いことに、この手の未来から娘が現れて、というパターンの作品の場合、肝心の「母親」が誰か分からないケースが多いのだけれど、この作品だともう幼馴染の阿梨亜がその人、というのは明らかなんですよね。しかも、二人の仲は現段階で、余人も介さぬラブラブっぷりで……ある特別な理由から、もうすでに将来を誓い合っているような状態なのである。ただの幼馴染というには深すぎる、お互いの人生を捧げあったような関係なんですよね。
遼太郎の阿梨亜への献身、阿梨亜の遼太郎への愛情、それはもうまだ学生の今の段階で余人が手を突っ込んでいいような、軽々しいものじゃなくなってしまってるんですね。その二人に対する、娘であるという雪音と鈴音という二人の少女のアプローチは、彼女たちと阿梨亜の関係を思うとちょっと重きをなすところが違ったんじゃないかなあ、と思ってしまう。パパラブはいいんだけれど、逆にその御蔭で後半鈴音が登場した上で一連の事情が明らかになったあとに、雪音の立ち位置が若干浮いちゃってて、存在感薄れちゃってるんですよね。遼太郎と阿梨亜の関係によりスポットがあたったとはいえ、家族愛をテーマとしているならもっと家族四人としてのそれや、母親と娘という関係についても重心が欲しかった。
もうちょっと遼太郎も立ち回りをうまいことやってくれれば良かったんだけれど、彼は彼で阿梨亜のため、家族のため、という自分本位な考え方に引っ張られがちで、スッキリしなかったしなあ。その自分本位、その人の為を思ってその人を救うために自分が損なわれて、結局その人の心を傷つけるような選択は、ダメだよ、許されないよ、いけないよ、という方向に話を持って行きたいのはわかるんだけれど、その選択に駄目出しするが為にはその選択を選んでもらわないと否定を強調出来ない、ってな具合に何度も遼太郎が誘惑に駆られて、或いは思いつめてそっちの方向にブレようとするんで、結局諭されたり思い直したりして戻っては来ても、ブレてしまった時の考えなしさの方に印象が強く残っちゃって、こいつは何やってるんだろう、という思いばかりが残っちゃったんですよね。
彼の持つ阿梨亜への愛情や献身は素晴らしいものなのに、物語の必要性に駆られてアホな選択ばかりして、泣かせたらダメな人を泣かせて悲しませて、という事ばかりしているように見えてしまったわけです。どうも、そんな子でもなかろうに。まあ、短絡的で考えなしなところがあるのは、娘の雪音も似たようなものなので、生来のものなのかもしれませんが。
タイムリープについても、設定がいい加減という事もあるけれど、何より当事者たちの認識がいい加減というか、過去に渡ること、時代の違う世界に行って二度と元には戻れないこと、についての認識が甘いを通り越して、何も考えてないぽいのが、ややも唖然とするところで、設定というよりも単なるシチュエーションとしてとらえた方がいいのかも、と思ってたら、これで終わりじゃないのね。
色々と伏線は仕込んでいるようなんだけれど、ふわふわしすぎていて、設定の精密さ、仕掛けの妙に唸らされる話ではないなあ。

って、ドタバタ家族ラブコメもの、幼馴染同士のイチャイチャものとして、なかなか面白美味しかったですよ、というたぐいの感想を書くつもりだったのに、なんかこんな記事になってしまった。読んでて楽しかったし、テンポや雰囲気なんか、すごく好みのタイプのお話だったのは間違いないんですよね、でもだからこそこれだけ不満がチリツモってたまっていたということなのか。
総じて勿体無いと焦れてたんだろうなあ、無意識に。