憂鬱なヴィランズ 5 (ガガガ文庫)

【憂鬱なヴィランズ 5】 カミツキレイニー/キムラダイスケ ガガガ文庫

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“絵本”を巡る悪役たちの物語――最終章

返却用のハンコをPOMに奪われ、“絵本”の返却はおろか、貸出期間を延長する術すらもなくした兼亮たちは、萩原きいろを確保し、彼女の『金の卵を産むガチョウ』の能力で新たな貸出カードを産ませようとしていた。そんな彼らの前にきいろ奪還のため、“絵本”をばらまいた張本人である“先生”が現れ、事態は急転、直接対決へ――。
だが、幻覚を使う『ハーメルンの笛吹き男』の能力は圧倒的だった。村瀬一郎は戦闘不能となり、貸出カードを破り捨てられた兼亮は、『赤ずきん』のオオカミに取り憑かれ、月夜チームは壊滅的状況に陥ってしまう。
そして、“イラストレーター”のエルモもまた、保護という名目のもとに月夜をPOMの研究所へ連れ戻すべく独自に動き始めていた……。

最悪な結末が描かれた“絵本”と、その悪役たちの物語、ついに最終章! 月夜と兼亮が行き着く結末は、ハッピーエンドか、それともバッドエンドか?
このシリーズは元々ジャケットデザイン素晴らしいのですが、この最終巻は文字通りの渾身の一作だったんじゃないでしょうか。もう見た瞬間、ゾクゾクっときました。これぞ、まさに美女と野獣、少女と狼。月夜を抱く狼の爪も去ることながら、兼亮の頬に添えられた月夜の手がもうたまらんかった。
本編もついにクライマックス。怒涛のようにこれまで謎、或いは未知だった事実が明らかになっていく。いやもうね、今回ばかりは本当に度肝を抜かれた。まさかまさか、ですよ。こればっかりは、これっぽっちも頭の隅にもなかっただけに、あの事実が明らかになった時には「マジで!?」と本気で驚かされた。なるほど、確かにこの巻で詳細が明かされた「エディター」というピースを当てはめると、まるで合致しなかった両者にラインが通ったんですよね。それにしても、これは鮮やかに死角を突かれた感があって、久々に「やられたっ!」と柏手を打つはめになりました。そうだよなあ、彼女は放置しておくにはあまりにも便利すぎる、万能すぎるファクターだったもんなあ。
しかし、今回の見所は何よりも「オオカミ」と化した兼亮と、千鳥姐さんでした。千鳥は、なんでこんなカッコいい女の子なんでしょう。いつだって、守りたい相手の為にズタボロになりながら報われないと知りながら、それでも胸張って仁王立ち出来るこの雄々しさは、悩んで迷って、涙を呑んで、痛みを堪えて、叫びを噛み締めながら振り絞ったものなのである。しかし、心からの選択なのだ。そいつの覚悟を、苦悩を、努力をそばで見続けてきたからこそ、そいつの顔を見た時にスルリと滑りだしてきたものなのである。
「良かったのか? 藤ノの目は誤魔化せん。あれは気丈にしておるが、人を傷つけることを恐れる優男じゃろう。噛まれた傷を見せて“側にいて”と甘えれば、いてくれたろうに」
「ふん。そんなの、あたしじゃないわ」
 千鳥は腰に手を当てて、胸を張った。
「あんたとの約束は“気持ちを素直に打ち明けること”でしょ。ちゃんと守ったわ。あたしはあいつに、大切な人を護れるような、格好いいやつになってほしいの。ちゃんと認めて、送り出せた。そんなあたしをあたしは――きっと、好きになれるんだわ」
こういう台詞を、スッキリなんの後腐れもなく言い放てるから、この人は、生駒千鳥はとびっきりにいいオンナなのである。何故か、女性の方にぞっこん好かれる傾向がある気もするのだけれど。
でもね、覚悟完了した兼亮は、そんな千鳥に格好いいと認められ、何の憂いもなく送り出されるに相応しいほど、かつてのヘタレを返上した、すっげえ男前っぷりだった。いやマジで一貫してカッコ良かったよ、このオオカミさんは。カードを破り捨てられオオカミに取り憑かれ乗っ取られ出したあとも、動揺することもブレることもなく耐え続けてましたし、それどころか取り憑かれた影響を逆手にとって反撃に出るほどの強かさも見せてくれましたし、クライマックスにおけるダークヒーローとしての姿ときたら、囚われの姫を救いに来た騎士ではなく、攫いに来た悪役さながらのワイルドさ、それでいてこれまで通りの兼亮のあの丁寧な喋り方とのギャップと相まって、そりゃ千鳥も、あの月夜ですらキュンキュン来てしまうわ。
前回の一郎さんと小雨のコンビといい、百六の無念にケジメつけようとした伊吹といい、このシリーズはほんと、どいつもこいつも、生き様がかっこ良すぎんよ!!
どれだけ惚れさせたら気が済むんだぃ。
そして何より、すねた月夜が可愛すぎる。笑った月夜が可愛すぎる。なんて素敵なハッピーエンド。
終わってみれば、最初から最後まで至福にたゆたえる最高のシリーズでした。デビュー作に、このシリーズと、作者さんの作品はどうやら自分にとって完全にツボに入ってます。こりゃあ、次回作も楽しみにしなくちゃしょうがないじゃないか。

シリーズ感想