0能者ミナト (8) (メディアワークス文庫)

【0能者ミナト 8】 葉山透/kyo メディアワークス文庫

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恐ろしい怪異が蠢く禁断の館。その最奥にいたものとは――元気に泣く人間の赤子だった。この異様な事件は解明されることなく、記録の奥底に眠ることになる。
赤子は立派な少年と少女に成長する。だが、そのささやかな平穏は破られる。赤子が怪異の子だという資料の流出。二人は追い詰められていく。
かくして退屈な依頼に殺されそうだった湊の登場である。なぜ怪異の館に赤子はいたのか。二人は本当に人間なのか。
不可思議な事象に湊の知性は驚くべき論理的解決を見出していく。だが見過ごした一つの可能性。それが恐るべき事態を引き起こすのだった!
さ、さすがに「メンデルの法則」まで適応されるとなると、じゃあ怪異って普通の生き物なの? という疑問が湧いてくる。遺伝子云々というルールに怪異も縛られるなら、それは怪異が幻想・超常の存在ではなく、既存の生命の系統樹に連なる存在なんじゃないのか、と。尤も、異類婚姻譚が成立する時点で怪異も既存の生命の範疇と考えて然るべき、という捉え方もあるわけか。
ただ、何れにしても無限令の試みは、怪異という存在に対するアプローチとしては御蔭神道と総本山のそれとは根本から違っていて、完全にオカルトの領域から外れた科学的なものなんですよね。そして、それが成立してしまっている時点で、この作品における怪異というものの見方そのものをひっくり返さないといけないのかもしれない。そうしないと、次の敵。無限令が対抗策を導き出そうとして叶わず、湊にその討伐を託すことになったラスボスっぽい大敵に対しては、そもそも立ち向かう事すら出来ないのではないだろうか。なんだか、それくらい無茶苦茶な大怪異みたいだし。
今回のお話は、怪異に対して湊が科学的アプローチで調伏していく、というこの作品における枠組みをやや逸脱した話だったと思うのだけれど、次のでっかい事件の前に、認識のパラダイムシフト、とまではいかなくても、今までよりもさらに柔らかく「怪異」という存在を捉えるためのワンクッションを置くための話だったんじゃないか、なんて想像すると、次がどれだけとんでもないスケールのお話になるのか自然とワクワクしてきてしまう。

と、その前に今回のお話だけれど、このオッサン、ほんとに信用出来ないよなあ。最近、度々本気で余裕ないケースがあったんで、今回もついつい信じこんでしまったのがなんだか悔しい。まあ、今回については湊が云々というよりも、スズという少女の度胸と肝の据わり方が並外れていた故、と割り切った方がいいのでしょう。実際の状況時における彼女の立ちふるまいはもとより、追い詰められても思いもよらぬ事が起こっても、動転してパニックにならず、あっけらかんとしていると思えるくらいブレないメンタル面の強さが運も結果も手繰り寄せたように思える。勿論、イチや沙耶のような信じられる相手、心から寄りかかれる相手が居たからだろうけれど、芯の強い女の子は格好いいわ。
沙耶も身近の歳の近い子がこういう生き方しているのを見て、何らかの影響を受けないものだろうか。世間ずれしてないのに、スズときたら一足先に……だもんねえ。……むしろ、関係ないけど理彩子の方が焦りそうで笑える。
何にせよ、今回の一件、湊の詐術では、御蔭神道や総本山という古く特殊であるがゆえに選良意識が悪い方に拗れた一面がある組織に対して、痛烈にしっぺ返し、というよりも、その一方的な見方がどれほど醜悪で愚昧でしかないかを身をもって知らしめる、という意味で実に痛快でした。御蔭神道や総本山も、決して腐りきった組織などではないのが、ちゃんと歪みに対しては自戒自浄が働きそう、というのもよくわかりましたし。単にやり込めるのではなく、組織を良い方向に向けさせる、なんてことを湊が果たして意識していたかはわかりませんけれど、口の悪さや態度の悪さと裏腹に、湊って案外……だもんなあ。

それにしても、ラストの湊と理彩子と孝元が毎回会合、というか集まって駄弁ってる喫茶店、いい加減利用するのも憚れるくらい、怪しい振る舞いしまくってるけれど、湊はもとより理彩子も孝元も気にせず毎回利用……というか、巫女服と僧服来たまま利用している時点で、わりと二人も大概なんだよなあ。
店側も大変である、これ。

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