アリストクライシIII with you (ファミ通文庫)

【アリストクライシ 3.with you】 綾里けいし/るろお ファミ通文庫

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辛くはないのか、寂しくないのか――人にも化け物にもなれなくて。

大都市ロミニアでは祭のような喧騒の裏で、少女ばかりを狙う連続殺人鬼「吸血鬼」の噂が流れていた。
エリーゼとグランはそこに『穴蔵の悪魔』の影を見、正体を探るも自分達が「吸血鬼」とされ投獄されてしまった!
脱獄を考える二人の前に現れたのは、義賊を名乗る少女達。
「吸血鬼」討伐で利害の一致したエリーゼは、しばし少女義賊に身を寄せるのだが、この出会いが彼女に絶望をもたらすものとなり――。
儚く哀しい化け物達のダーク・ファンタジー終幕!
打ち切りかぁ。売上の問題と言われると、どうしようもないですもんね。とりあえずは3巻まで続いて、一つの格好をつけられた分、作品としては良かったのですが。というか、あとがきで書かれているほど有耶無耶な感じではなかったですよ。確かに様々な問題や因縁については決着つかずじまいでしたけれど、これがどこまでもエリーゼとグランの二人の物語であったと考えるのなら、何が一番大切なのか、についての結論が出たことで、穏やかな気持ちで幕引きを受け入れられました。たとえこの後、どのような変遷を辿ろうとも、エリーゼとグランがあの気持ちをちゃんと抱いていけるのなら……それこそ悲劇に終わろうと納得出来そうな気がしますから。尤も、この作者の綾里さんは、悲劇と無残と残酷を嗜みながらも、根本的な所で希望を追求し続ける作家さんなので、切なく救いのない終幕というのは無いと思うのですが。実際、3巻でこの作品を完結させるにあたって、そちらの決着は回避してますしね。
それにしても、まだまだこのエリーゼとグランという人にも怪物にもなれない、狭間の中でただ二人だけ、という男女の行く先はもっともっと見ていたかった。決して世界と繋がれず、しかし掛け替えのない相手が傍らに居る中で、永遠に近い時間を彷徨う二人、という切なくも深い愛に浸るようなシチュエーションは昔から大好物でしたから。
でも、エリーゼとグランについては、エリーゼが復讐に取り憑かれ、その心を炎で焼き続けている事が、不可分であるはずの二人の関係が、まだ本当の形と得ていないという点で、まだ過程の揺らぎの段階ではあったんですよね。そして、結末となる今回のお話は、エリーゼにそれを突きつけ、答えを促す話でもありました。
すなわち、かつて彼女のすべてを奪い去った者への復讐の為に、今持ちえているすべてのモノを捨てされるか。復讐の対価として、新たに得た大切なものを捧げられるか。過去の怨念を取るか、今自分にとって一番大切なものを取るか。未だ大切な者を持ちながら、人の大切な者を奪い去れるのか。
かつてすべてを奪い去られた自分が、人からすべてを奪い去る者になるという事実。もし、本当にすべてを奪い去られたままなら、彼女はそのまま心のない怪物に成り果てて楽になれたでしょうに、エリーゼは改めて掛け替えのない大切な者を手に入れてしまっていた。
今まで自分が全身全霊を投げ打ってきた復讐が、今自分を千々に引き裂こうとしている絶望。あのエリーゼの狂乱こそが、そしてその狂気ですら投げ捨てられなかった想いこそが、この物語が至るべき骨子だったのでしょう。狂乱し、絶望し、死に果てた彼女に、グランが注ぎ、捧げ、埋め込んだ誓いであり、呪いであり、祈りこそが、この物語の深く深く溺れそうな美しさの源泉だったのでしょう。
たどり着いた。
「for Elise(エリーゼのために)」
1巻のサブタイトルだったこのフレーズ。グランという心のない怪物が、エリーゼのために、と願い祈り至った答えこそが、この誓いでした、約束でした。
「with you(あなたと共に)」

いつか、このふたりきりの物語の続きが読めることを、切に祈り願います。今は、この雪に覆われていくような静かな、しかしその冷たさのなかで抱きしめられているかのような温かな気持ちに浸っていたい。

1巻 2巻感想