新米社長のパーフェクトゲーム切り札の使い方 (HJ文庫)

【新米社長のパーフェクトゲーム 切り札の使い方】  ツガワトモタカ/黒衛もん HJ文庫

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すべての切り札を揃え、いざ戦争の完全勝利へ!
精霊力の利用を可能とし、国家繁栄を約束する七色の液体《リキッド》。
その市場を独占する三つの超巨大企業の一角や、民間軍事会社にも所属していた過去を持つ青年アレックスは、妹のイブと共にリキッドを扱う新会社を立ち上げ、腐敗した三大企業の打倒を宣言する!
頭脳、人脈、資金、武力――すべての手札を揃えた新米社長の痛快エンタテイメント!!
二大超大国と、それ以外の国のあまりといえばあまりの文明格差に、いやいやこれは国際経済的に幾らなんでも素人にもわかるくらい無理があるよ! と、思ってたら、実際無理があったらしくて、そこが突破口となってくれそうなのにはホッとするやら納得するやら。そりゃ内需だけじゃ限界あるし、他の国がこれだけ貧乏だと外需も期待できないですしね。さすがに、喧嘩を売る相手は間違えてなかったか、と安心させられた。なんか、流れ的に国そのものと喧嘩するのか、という勢いだったもんなあ。
でも、文明レベルが現代にも関わらず、リキッドを生産出来ない国は民需でまともに機械が運用することも出来ていない、というのは国際経済に組み込むことも出来ないレベルなんじゃないだろうか。貧乏極まってた戦前の日本だって、漁船にはエンジンついてたぞ。車はろくに走ってなかったし、重機のたぐいはろくに存在すらしてませんでしたが。
《リキッド》というものを、石油と捉えてエネルギー政策をより極端にした世界がこれ、と考えれば幾分世界情勢もわかりやすいかもしれない。まあ、ここまでの戦略物資を企業側が好き放題にしている、というのは幾ら石油メジャーの力が強い上に、その資本を元手に圧力団体として議会まで掌握してはいても、面白く無いはず。企業戦略と国家戦略というのは、方向が同じであっても交じり合うものではありませんからね。それでもなお、企業側がゴリ押し出来るということは、それだけ途方も無い資本力と権力と、権力を運用する手練手管が備わっているはずなのですが、実のところ合衆国側の大企業には、その手の「怖さ」があんまり感じなかったんですよね。その権力にあぐらをかいて、腕力に任せて力を振るうだけの荒っぽさしか感じない、こういうのはさほど怖くないんですよ。これは絶対に触れてはいけない領域である、というヤバさが無いから。
巨大な組織との対決って、人間と人間との対決ではなくて、システムという得体のしれない巨大な怪物との戦い、という側面があると思うんですよね。その怪物とは生命的なものですらなく、深淵を覗きそこに落ちていかなければならないかのような、恐怖感絶望感が肝なんだと思う。
今のところ、世界を牛耳る組織ではあっても、ハルバードは老朽化したでくのぼうのように反応も動きも何もかも鈍くて、多分ここから優秀な人間が対抗して出てくるにしても、逆に人間同士の駆け引きと読み合いの勝負というところが落とし所になるような気がするし、逆に考えるならアレックスは勝負の舞台をそこ次元にトドメないとかなり苦しい話になってくるんですよね。ただ、その観点からしても、彼が最後に垣間見せた手札、切り込んだ方向は布石としても非常に大きいと思う。今のところのアレックスだと、世論やスポンサーサイドへの手回し、社会的に抹殺する搦め手に出てこられると、対抗策を打ち出せるだけのバックグラウンドにどうしても欠けてたんですが、あそこまで合衆国政府と財界の内側に食い込んで居るのなら、搦め手についてはあまり気にせず、純粋な商売の勝負と単純な暴力に抗すう事に集中出来そうですし。意外と堅実な舞台構築をやってると思いますよ、この作品。それでいて、スケール感はガンガン遠慮なく拡張していってますし、今回のこの一つのリキッド採掘権を獲得する話は、状況解説と三大企業との戦争の号砲を告げるだけのプレ・イベント、くらいにとらえた方がいいのかもしれない。本番は、むしろ次回からなのかも。
掴みとしては、非常に面白かったので、ここからどれだけ突っ走れるのか。企業小説的側面を持った珍しいタイプの作品でもあるわけだし、これは展開が楽しみです。