Vermillion 朱き強弓のエトランジェ (このライトノベルがすごい! 文庫)

【Vermillion 朱き強弓のエトランジェ】  只野新人/フルーツパンチ このライトノベルがすごい!文庫

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朱き弓使いが転移したのは、ゲームに酷似した苛酷な異世界だった――

硬派なゲームシステムで知られる海外産VRMMORPG【DEMONDAL】。騎射の達人にして廃プレイヤー・ケイと相棒のロシア人“NINJA"・アンドレイはゲームプレイ中、【DEMONDAL】そっくりの異世界に転移してしまった。
不意に盗賊に襲われ、瀕死の状態になった相棒を救うため、ケイは単身、盗賊のアジトに乗り込む。手には朱色の強弓、“竜鱗通し"を携えて……。
応募総数2200作品から選ばれた、第二回なろうコン大賞受賞作品!
ウェブ小説だった作品の特徴というべきか、はたまた逃れられないさがというべきか。元々本としての一冊の分量を意識していないせいか、第一巻の内容がどうしても盛り上がりどころを迎える前に、或いは構成としての起承転結が成立する前に話が区切られちゃう場合があるんですよね。あれ?もう終わり?てなところで、一冊読み終えてしまう。
じゃあ内容弄って、1巻の中でちゃんと起承転結つけよう、なんてことをすると、これはこれで見るも無残なことになってしまったケースも往々にして見受けられるので、難しい話なのである。
ウェブ小説として書いている時点で、本の一冊分の分量を意識して書く、というやり方もまああるのでしょうけれど、ウェブ小説の長所となり得る点として、分量に縛られないからこそ自由かつ大胆に書ける物語があると思っている。こういう自由さの中でなければ生み出されない傑作、というのもあると思うんですよね。この辺りはフレキシブルにやって欲しいなあ。
しかし、そうは言っても書籍化するとなると、1巻での掴みの弱さはやはりキツいものがある。2巻、3巻までとりあえず読んで欲しい、と後々素晴らしい作品になっていくことがわかっていると、そうお願いしたくもなるけれど、最初からそれを前提にして読者に期待するのはなあ……。
と、前振りも随分と長くなってしまったのですが、本作もつまるところそういう、スタートダッシュがかなり鈍いタイプの作品だと思うんですよね。特に苦しいのが、ヒロインであるロシア少女が出鼻から昏倒してしまって、意識を失ったまま殆ど出番がないところか。元々ゲーム内で相棒同士だったし、こちらの世界に来てからある程度お互いの事情みたいなのを話し合っているので、コンビとしてはすでに関係は出来上がっているのですけれど、片方意識を大方失っていたせいで、異世界に対する認識、心構え、殺人への意識などのすれ違いの要素がまだ萌芽として出てきはじめた段階であり、同時に信頼関係についてもまだ本当に通じ合っている段階では全然なく、手探りをはじめようか、というつまるところ本当の意味でスタートする前の段階、何もはじまっていない状態なんですよね。うん、仕方ないとはいえ遅い。世界観、この異世界についての探索、文化レベルやモンスターなどの生体、社会情勢や元のゲームとの差異なんかの調査も、最初にゴタゴタがあったせいか遅々として進まず、まだ右も左もわからないまま、ですしね。
ほんとに、導入も導入編のところで終わっちゃっているので、さすがにこれは盛り上がりどころがなかったかなあ。確かに、盗賊団との戦いもあるんですが、プロローグでやるようなプレイベントレベルとして捉えうる出来事なんで、盛り上がりどころとも見えないですし。
まあこれは構成の問題なので、上記したように難しい所で、現状どうしようもないといえばどうしようもないんでしょうけれど。
世界観自体は、昨今ゲームの延長みたいなイージーな異世界が多い中で、本格的な臭い汚い血腥い、というのが伝わってきそうな中世欧州風の異世界。元が洋ゲーという趣もあるのでしょうけれど、村人の生活感なんかからしても、相当リアルな中世の雰囲気を感じます。
秀逸だったのが、ゲーム内から異世界にトリップしてしまう時の出来事のあの不気味さ加減ですね。かなり気持ち悪くホラー感覚な体験を経て、異世界へと転移してしまうだけに、えらく不吉な感覚を抱いたま「DEMONDAL」の世界に降り立つことになるわけで、どこか陰鬱で重苦しいさがこびりつく雰囲気は作品の風味としてはなかなか重厚感みたいなのを醸しだしているんではないかと。
問題は、主人公のキャラクターだわなあ。これは、完全に好みの問題なのですけれど、自分は彼の酷薄さには忌避感を抱いてしまった。その身の上や、突然の事態に対する余裕の無さや、アイリーンを守らなきゃならないという必死さ、右も左もわからない世界で生き残っていかなければならないという算段からからくるものだというのは理解は出来るのですけれど、優しさや厚意、親切というものに対してあれだけそっけない態度をとられてしまうと、やはり共感や感情移入はしにくいですからね。割り切りというか、人殺しに対しての無情さも、なんか距離感感じますし。決して、殺人を忌避しろとか思わないですし、殺っちゃう事を全然気にしないキャラも気にならない時は全く気にならないんですけれど、彼のやりようはどうも過敏な感じがして、嫌悪感を感じてしまったんだなあ。主人公に対して言うようなことじゃないですけれど、信頼しにくいキャラクター、という感じで。
ともあれ、本番はこれからでしょうし、コンテストの大賞を受賞したという作品なのですから、ここから盛り上がっていくのでしょう。ちゃんとした物語としての感想は、それからになりますか。