路地裏のあやかしたち (3) 綾櫛横丁加納表具店 (メディアワークス文庫)

【路地裏のあやかしたち 綾櫛横丁加納表具店 3】 行田尚希 メディアワークス文庫

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路地裏にひっそりと佇む、加納表具店。店を営むのは、若く美しい環。掛け軸や屏風に込められた思念を鎮める仕事を引き受けている彼女のもとには、様々な事情を抱えた妖怪が相談を持ち込んでくる。
今回登場するのは、音痴なのにミュージシャンををめざす〈鵺〉、弁護士として働く〈天邪鬼〉、そして〈雪女〉の蓮華。
彼らの切ない物語に触れ合ううちに、高校生・洸之介は将来の進路を深く考えるようになる――。人間と妖怪が織りなす、ほろ苦くも微笑ましい、どこか懐かしい不思議な物語。多くの読者に愛されたシリーズも、これにて完結!!
前回のお話が、人の人生に寄り添う妖怪たちの話であったように、今回の「鵺」「天邪鬼」「雪女」のお話は、「将来」を想起させる話になっている。夢を追い続ける鵺。望む職につき、しかし現実に悩む天邪鬼。時を経て別れた人間の親友と再び会う事に悩む雪女。ずっと変わらずに居てくれる彼ら妖怪たちだけれど、何も変わらずにいるわけではないんですよね。変わっていく環境に併せて、或いは自分で変えて、変わりゆく関係を変わることで結び続けて、彼らもまた変化の中にいる。
それを知った時、実感した時、洸之介の中でどんな意識の変化があったのかはわかりません。そこに安堵を見たのか、勇気を得たのか。
いずれにしても、自分の中の本当にやりたい事を見出していく姿は、ここちの良いものでした。自分でも気づいていなかった、自分の中の将来への望みを、無理矢理でも強引でもなく、自然な形でかぶさっていたものが剥離していくように見えてくる様子は、とても自然なもので、この作品の妖怪たちの人との交わり方もそうだったのだけれど、この自然な感じがこの作品の根幹でもあったような気がします。
それでいて、決定的な後押しをしてくれたのが、家族である母親だった、というのは柔らかな思わずはにかんでしまうような優しい感触だったなあ。実に姉御肌な、というかそれを通り越して男前なお袋さんである。
てっきり、改めて環さんのもとで本格的に修行するのかと思っていたのだけれど、洸之介の中で芽生えた表具というものへの「欲」は、そんなところに留まらなくて、芸術家で絵師だった父親と、理系の研究者である母親の両方の特性を受け継いだ道へと展望を開き、環さんのもとで小さくまとまるのではなく、師匠であると同時に次の時代に新たな技術を取り込んで伝えていってくれる伝承者でもある環さんに、新しい技術を創りだして伝えたい、というのは、随分と格好いい展望じゃないですか。こうやって、やりたい事が具体的に定まって、邁進していけるって羨ましいです、素直に。それをずっといつまでも見守ってくれる人が、血の繋がった家族以外にもこんなにもたくさんいるというのが。いってらっしゃいと送り出してくれる人がいて、帰ってくる場所があるからこそ、気持よく旅立てる。
若々しくも落ち着いた、とても健やかな物語でした。

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