絶滅危惧種の左眼竜王<レッドデータ・ドラゴンロード> (HJ文庫)

【絶滅危惧種の左眼竜王<レッドデータ・ドラゴンロード>】 千月さかき/クロサワテツ HJ文庫

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魔法使いが竜を駆逐し、世界の上位種として君臨する現代。魔法使いとして〈失敗作〉の烙印を押された少年・晴空は、最後の竜を看取り竜眼使いとなっていた。
そんな彼の前に突然現れた少女・茉莉花――晴空を「兄さま」と呼び、最後の竜と人間のハーフだという彼女との出会いは、世界をくつがえす戦いの始まりだった!!
竜と魔法が織りなす、下克上ハイスピードバトルアクション!!
ここ数年からの流行りとして、タイトルの単語にルビを振る、というものがあるのですが、今まではあくまで一部の単語にルビを振っていたのに対して、ついにタイトル全体にルビを振る作品が現れましたよ、っと。
語感もよろしいので、自分としては結構好きなのですけれど。
それに、絶滅危惧種(レッドデータ)と聞くとどうしてもドキドキしてしまうんですよね。浪漫がある、というと語弊があるんだけれど、世界の上から消滅してしまいそうな種、というのにはそれだけで胸を締めつけるような哀切を抱いてしまうのです。かつて、地球上にはそういう生命が居たのだ、という過去形であり思い出であり、いつしか誰も見た記憶のない記録でしかなくなり、歴史としてしか語られなくなるであろう存在へと至ろうとしている、滅び往く種。
かくて世界に君臨した「竜」という種族は、まさにその滅び絶滅し過去の残滓と成り果てた種であったはずが、しかしここに竜の血と力と意思を、願いを次代へと繋ぐ最後の希望が残されていたのです。
そう、これは滅び行く種の儚き哀しみを語る物語ではなく、絶滅危惧種(レッドデータ)という言葉にむしろ新たな未来を思い描くことの出来るお話だったのです。
種の絶滅とは、得てして理不尽で世界の調和を乱す許されざる事と捉えがちですし、確かに人の手による環境変化や、直接的な攻撃によって一つの種が絶滅してしまうというのは、まずもって防がなければならないことなのですけれど、超長期的に見て自然なサイクルによって発生するであろう種の絶滅というのは、同時に新たな世代を担う進化した種の繁栄の下敷きとも言えなくもないのです。この物語における「竜」の絶滅は、「魔法使い」による理不尽な攻撃によるものであり、決して自然界の流れがもたらした自然な世代交代ではないにしても、ある種の生存競争の結果でもあるんですね。しかし、そこから魔法使いという種が竜の座を取って変わる、という所に収まらず、竜が絶滅したのではなく、魔法使いが勝ったのではなく、そこから新たな進化が生まれていた、というのがこの絶滅危惧種(レッドデータ)という言葉に託されていた希望だったわけです。
先細りして消え行く赤色ではなく、至ったはずの零から生じた最初の赤。やがて世界に増え広がるだろう、始まりの赤、なんですよね、これ。
世界に残されたたった二人の最後の竜の眷属として、魔法使いの支配する世界のもとで竜の最後の灯火を見守るか細いお話だと思っていた認識を、大胆にどかんとひっくり返す仕掛けが用意されていた、なかなかに面白い作品でした。これ、同時に主人公である晴空という少年の在りように対する認識も上手いこと迷彩掛けられていて、彼の真実こそがすべてのどんでん返しの足場になる、という形も痛快なものでヨカッタですよ。
まあ新人作品らしく、この一冊にある程度詰め込んで結末まで形を作らないと行けない分、割を喰った部分もちらほら散見できるんですけどね。リディアの扱いとか、歌音の気持ちの掘り下げとか、天伎家の晴空への関わり方とか、微妙に削られたっぽい気配が感じられますし。
そうしたところが、微かに物語の流れに粗というか、隙間を感じさせる要因かな。でも、押さえるところはキッチリ押さえているので、今のところはこれで十分ではないかと。
一番の問題は、むしろ主人公の晴空の、自分一人で結論出してしまう性格ですか。なまじ完成されている分、自分一人で答えを出しちゃって、他人の意見を求めないんですよね。これのお陰で一番えらい目にあっているのが、幼馴染の愛菜であり、現在進行形で手こずらされるのが、妹として現れた茉莉花だったわけであり、ある意味致命的に迷っちゃったのが、歌音姉ちゃんだったのですね、これ。特に歌音姉ちゃんは、梯子を外されたってわけでもないんだけれど、幼いころに既に晴空がガツンと彼女の意識に一発食らわせていたのを考えると、順当にそのまま行っていれば、彼女の意識自体今の形に至る前に穏当な方に変わっていた可能性もかなりありそうなだけに、晴空のせいというのはあまりに可哀想だけれど、彼のそれが違っていたらまた違った未来もあったのかな、と。
とはいえ、晴空のそれはそれじゃあいかん、と逆にガツンと食らわせる役を担ったのが、つまるところ茉莉花であり愛菜という二人のヒロインなんですよね。主人公の凝り固まった意識、観念をガツンと一発食らわして打破し、ぶっ壊し、目覚めさせてそいやっと前に進ませる、背中を押してくれる、発破を掛けてくれる、新しい世界をくれるのは、いつだって女の子の愛情の篭った叱咤激励なのである。殻を壊し、完成を完結として終わらせずに、次の段階に進ませてくれる原動力であり燃料であり推進力となってくれるだけのプレゼンスを、この茉莉花と愛菜のダブルヒロインは十分持ってくれていましたね。この二人がいるなら、本作はどんどん良作シリーズとして加速していけると思います。
大事にして貴重よ、こういうガツンとやってくれるヒロインは。