ユア・マイ・ヒーロー2 千早ぶる神 (講談社ラノベ文庫)

【ユア・マイ・ヒーロー 2.千早ぶる神】 幹/ぶーた 講談社ラノベ文庫

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神を創生する千早計画―まだそれは未知であり開発途中であるが、手にすれば世界を操る可能性を秘めていた。それを封じた宝珠は星宮市で保管されていたのだが、ある人物が宝珠を盗み出そうとする。その人物に雇われたのは桁違いの霊力を操る霊能者達。万能な天剣を持つ八雲でも歯が立たず致命傷を負い、やすやすと宝珠を渡してしまうことに!皆が苦戦していた犯人確保に加わったのは、家出した八雲を捜し追いかけてきた妹の茜。彼女は兄と違い才ある剣豪だったが、謎のロシア美女の手に落ち、窮地に追い込まれる。神を創生し操る千早計画の全貌、そして茜の正体とは!?神を殺めるミッションを課せられた、アクションファンタジー第2弾!
苦悩する天才たち。あれほど才に恵まれた巫女である聖でさえも、規格外の存在を目の当たりにしたことで自己肯定出来なくなり、八雲と組んでこの街で作戦行動に入るまで迷いの中に居たように、隔絶した剣才を蓄えた茜もまた、エージェントとしては失敗を重ねて落ちこぼれの烙印を押されかけ、苦悩し続けていたという。
才能の無さ故に苦しみ、実家を飛び出して地べたを這いずるようにヒーロー足らんと努力し続けた八雲だけれど、決して才があるから順風満帆な生き方が出来る、というわけでもないことが、八雲の二人の「妹」の苦悩がそれを示している。そして、彼女たちにとっては才能のない落ちこぼれであるはずの八雲こそが、何者にも代えがたい「ヒーロー」であったのだ。
才はなく力も弱い。どれだけ足掻こうとも、本物の天才との間には越えがたい壁がある。それでも諦めず、歪まず、弱い自分が出来うる事を全部拾って、頭を使い、強かに立ち回り、クレバーに勝ちを拾っていく。それも、ただ勝つことに拘るのではなく、目的を達する事に徹するのでもなく、ヒーローとして悪いやつをやっつけ、助けなきゃいけない人を絶対に助ける、そんなヒーローに、彼は成らんとしているのだ。
数々の名だたる英雄を育ててきた、零落した女神のクロの目は確かだったのでしょう。英雄とは天才にあらず、すなわち「イイ男」ってなもんだ。あらすじには茜の正体云々言っているけれど、むしろ正体に驚かされたのはクロの方である。どっかの元神様であることは既に前巻で言及していたけれど、さすがにこの正体については見識の及ばぬところであり、同時に英雄の教育者としてはなるほどと深く首肯するものでありました。
ってか、日本の神様は全盛期とばかりに大いにはしゃいでいるのに海外の神群の中には既に信仰を失って滅び去ってしまっているものもあるのか。海外は海外で、地元の神様たちがそれぞれに威光を示しているのかとも思っていたけれど。
しかし、現人神になるというのは掛け値なしに人間の枠組みを超える禁忌だったんだなあ。精神が明らかに狂乱しちゃってるじゃないか。人が人以上の存在になるというのは、精神構造から価値観から根本的に変わってしまうというのが当たり前であり……前作の主人公はあれ、なに平然と「朝起きたら神様になってました」みたいな感じで神様にクラスチェンジしてたんだろう。そりゃ、当初他の神様たちや巫女さんたちに警戒されるわけだわ。それ以上に、千鳥がどれだけ危ない橋を真人に渡らせていたのかを今になって目の当たりにして、冷や汗が出てくるじゃないですか。あんた、一つ間違えたら真人くん、こうなってたのよ? どれだけ、自分の人を見る目に自信があったんだか、自分の能力を信じていたんだか……単に恋は盲目だったんじゃ、と思うと乾いた笑いが……。いやはや、今代の現人神さまは、実際偉大な方だったのですなあ。
一方で、此方の主人公にして英雄候補も、何気に尋常じゃないですよね。才能がなかろうと、弱かろうと、助けてと呼ばれたら即座に現れてくれる人ほど、ヒーローに相応しい人は居ないでしょう。
全然スマートじゃないけれど、バタバタと落ち着かずにクールとは程遠いけれど、二人の天才少女が心から憧れるヒーロー見参此処にあり。
惜しむらくは、この二巻でこのシリーズ終了という所でしょうか。せっかく、せっかく八雲の聖にクロに、そこに茜が加わって、ある意味パーティーとしてもラブコメとしても三人と一匹で完成形を得たというのに。ある意味こっからスタートと言っても過言ではなかったのに、勿体無いなあ。
前作から考えても、ほんと話の見せ方、キャラの見せ方、語り口など上手いんですよね。練りこめば練り込むほど味も出てきて、長期シリーズ向きの作者さんなのに。一度、じっくりと長いの書かせてあげて欲しいのです。

1巻感想