見習い神官レベル1 -亡き姫君のための狂想曲- (ファミ通文庫)

【見習い神官レベル1 亡き姫君のための狂想曲】 佐々原史緒/せんむ ファミ通文庫

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修練場を燃やしてしまってあわや落第かと思われたが、何とか進級を果たしたヨシュア。張り切って二年生をはじめようとした矢先――まさかのイジメの標的に!?
刃を向けるでも毒を盛るでもない嫌がらせに、むしろ新鮮と思うヨシュアだが、突き止めた犯人は、何と最上級生の現首席だった!
暴虐王【アフェク】の自主留年のせいで、とんでもない迷惑を被っているという彼女は、実は、暗殺者時代のヨシュアとある因縁があり……!?
最凶嫁つき学園ライフ、好評第3弾!
二年に進学してもレベル1のまま、と勘違いされそう。レベル制度のある世界じゃありませんからね、念のため。
二年生になったということは、キッチリ一年間作中でも時間が経ったということで、振り返ってみると始まった当初からずいぶん色々と変わってきたものもあり、変わらないものもあり。そうなんだよなあ……このシリーズが始まった時って、主人公のヨシュア一人だけが一回り年上の青年で、周りの子たちは幼いと言ってイイくらいの本の子供ばかりで、なんでこのシリーズは主人公が子供の引率みたいな役回りなんだ? と首を傾げたものでしたが……。
内心正直に言うと、子供たちのことを面倒くさい、鬱陶しいというくらいにしか思っていなくて、一回り年上で外の世界でそれなりに過ごしてきた分社会経験も豊富ということで、ともすれば好き勝手に動きまわる無軌道な子供たちの面倒を見て、あれこれと世話を焼いて、みんなのおかん役みたいな役回りになってヒーヒー言っているばかりだったヨシュア。嫁のスーリィアとも自由にイチャイチャ出来ず、ストレスをどんどん蓄積していっているのが傍目にもよくわかって、何とも息の詰まる学生生活を送っていたものですけれど……旅を通じて子どもたちとも打ち解けて、スーリィアの事も自分の過去の事もバレてしまった事で逆に隠し事をする必要がなくなり、いつしか自然に笑えてる事が増えてたんですよね。そういえば、ティエルが変にヨシュアに突っかからなくなったのも、ヨシュアが子供を適当にあしらう笑顔の仮面をかぶらなくなって、自然に彼女に接するようになってからなんですよね。今回ヨシュアが過去の罪を突きつけられる事で苦悩を抱え、ふと子供たちと心の距離を置こうとしてしまっていた時にティエルが鋭く指摘してきたことで、それを思い出した。
この子たち、なにも考えずにスィーリアの事やヨシュアが昔暗殺者として働いていた事を受け入れていたのかと思ってたんだけれど、彼らは彼らなりに真剣に、ヨシュアの過去とその犯した罪について向き合ってたんだなあ。ヨシュアの過去を他人事ではなく、その罪もひっくるめて一緒になって抱えていくんだ、というあの心意気には、思わず言葉を失ってしまいました。なにも考えてないなんてとんでもない。彼らは覚悟を持って、暗殺者だったヨシュアを、仲間として、家族として受け止めていたのだ。
年上のお兄さんに引率される幼い子供たち、なんて最初の頃の印象なんて、もうとっくに吹き飛んだよ。今のこの子たちは、ヨシュアにとって対等以上の、掛け替えの無い一生涯の親友たちだ。

そんな風に、ヨシュアが新たな人生を歩みだしているように、かつてヨシュアが手にかけた被害者の遺族たちもまた、過去にそのままとどまっているわけではない。ヨシュアが出会ったこの学園で出会ったネイラという少女もまた、変転する人生を溺れながら、ここまで辿り着いて新たな生活の中を歩み始めている一人だった。
ヨシュアもネイラも、こうして学園という箱庭の中で過ごすことで過去に区切りをつけて、新たな人生を手に入れいている一方で、外に取り残された彼らの家族たちは未だに過去から現在に続く連続性の中に囚われているのを見ると、俗世との断絶という意味合いもあるこの学園での時間というのは、何かしらの意味があるんだなあ。でも、外に取り残された人たちからすると、連続性を断ち切って違う人生を歩みだしているヨシュアやネイラたちに対して、許しがたい怒りを感じてしまうのもわからなくはない。裏切り、置き去り、妬みか喪失感か。そうした負の感情による吸引は、断絶に後ろめたさを感じてしまっている人間には悪夢めいた痛みを得てしまうものなのだけれど、ヨシュアはスィーリアという嫁がいて、今ティエルたちみたいな大事な友だちが、身内が出来る事で決別という痛みを乗り越える決意が出来ていて、今改めて自分の犯した罪に対しても向き合う意思を持つに至っていたのだけれど、ネイラはずっと友達と呼ぶ使役精霊一人だけだったのよね。それ以外に初めての大きなつながりをヨシュアに求めた事は、果たしてネイラにとってどういう心境だったんだろう。彼のことについては、気づいていたというのだから。
何れにしても、彼女もまた決別という決断を選び通したのである。意思の力は、斯くの如く凛として尊いものであるのか。

無事3巻まで出て、さらにまだ4巻にも続くという、佐々原作品としては久々に3巻超えのシリーズが出来ましたよ、っと。ただ、どのシリーズも何故か四巻で締めちゃっているので、ここは4巻で満足せずにさらに長期シリーズを目指して欲しいものです。

佐々原史緒作品感想