蒼井葉留の正しい日本語 (ファンタジア文庫)

【蒼井葉留の正しい日本語】 竹岡葉月/タケオカミホ 富士見ファンタジア文庫

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ラノベ作家になるという夢を叶えるべく、高校進学と同時にひとり暮らしを決めた久坂縁。彼が新居である「鳩居寮」で出会った少女・蒼井葉留は、パッと見は可憐、中身は「辞書」と「正しい日本語」を愛しすぎる変人だった。「あのあの、久坂君。ここの、奥義“土龍天翔爆裂拳”とはどういう意味でしょうか」書き上げたばかりの原稿を真っ赤に校正され、中二ワードの意味を真っ正面から質問され、縁のライフは削られっぱなし!ラノベ作家(志望)と日本語少女のディクショナル・ラブコメディ、開幕です!!
あれ? イラストの人、カタカナになってるけれど、竹岡美穂さんじゃあるまいか。なんでカタカナ表記にしたんだろうか。作者と名前被るから? むしろ、竹岡姉妹の共同作品というのを前面に出した方が映えるでしょうに……て、あれ? 商業作品でこの二人が組んで出す作品ってもしかしてデビュー作以来!? その意味でも記念的作品なんですよね。
正しい日本語と言われると、どうしても構えてしまいます。これが正しい、と指摘されるというのは逆から見るとそれは間違っている、と言われているようなもの。しかし、数式のように決まった解答があるものならともかく、言葉というものは常に変転していくものであり、正しい日本語とはどの時系列的・地域的な起点を元にするかで全然変わってくるものであります。ところが、正しい日本語を主張しそれを正しいものとして声高に言い募る人々の少なからぬ数が、その起点を主観上にしか持っていないように感じます。言葉もまた、歴史。そして、言葉の正しさとは、どれだけ相手に自分の意図を、意思を、想いを伝えられるか、それに尽きるのではないでしょうか。
辞書をこよなく愛し、日本語という迷宮にどっぷりと頭まで浸かっている日本語愛好家の蒼井葉留。彼女は、決して凝り固まった「正しい日本語」の信奉者ではなく、また布教家でもありません。彼女の正しい日本語への愛は、排他でも共有でもなく、ひたすら個人的に愛好する事に傾いています。勿論、重度の愛好家らしく、話題には食いつきますし、ついつい口出ししてしまったり、人の文章を添削校正しちゃったりも我慢できずにしたりもしますけれど、決して自分の正しさを押し付けてくるわけではありません。言葉の歴史にも造詣が深く、言葉の誕生、意味の変遷についてもほぼ正確に網羅しているだろう彼女にとって、正しい日本語とは決して固定されたものではなく、久坂の創りだした中ニワードを好奇心たっぷりに掘り下げていったり、リア充などの新語に目を輝かせたりと、とても柔軟に変化と新規と受け入れていきます。
そんな彼女が、どうしても認め難く我慢しがたかった事とは、言葉に託された、込められた思いが間違って解釈されてしまうこと。ちゃんと正しく伝わらないこと。正しい日本語とは、きっと正しく伝わる日本語の事なのだ。
尤も肝心の蒼井葉留当人は、ポワポワとした天然風情ですぐに自分の世界に夢中になってしまうせいか、話をしても果たしてどれだけ伝わっているかわからない、というのは何とも微苦笑を誘われる為人なのだけれど。
でも、彼女の語る日本語は、とても健やかで雅で優しく柔らかい。帰国子女ということで、ライトノベル作家を目指しながらも決して日本語に長けている訳ではない主人公久坂にとって、彼女の日本語へのスタンスはとても新鮮で刺激的なんじゃないだろうか。とりあえず、当面彼女に校正と添削をしてもらうだけで美しく涼やかな文章を書けるようになるんじゃないだろうか。彼女の赤ペン添削は、指摘こそ多いものの一方的な否定は見当たらずとても柔らかいので、何というか抵抗感なく、感情的にならずに受け入れられると思うんですよね。彼女には、自分はこういう意図でこの言葉を使ったのだ、と従来とは違う使い方をしていても、ちゃんと説明すれば受け入れて貰えそうだし。そこで説明できない、恥ずかしい、抵抗感がある、というのは使う言葉に全力を尽くしていないようなものですしね。

学園モノの中でも「寮」を舞台にした作品というのは、年齢も違い人柄も様々で、普通の学校生活ではまず一緒に行動することのないだろう人たちが、同じ空間で共同生活を送るという意味で、部活モノとはまた違う雰囲気があるものだけれど、本作も順当に「寮」モノの味わいを醸し出しているので、先々が楽しみです。
なんか既に危うい話が聞こえてきているのは、気にしないもん!

竹岡葉月作品感想