獅子は働かず 聖女は赤く 5 かくして、あいつは働いた (集英社スーパーダッシュ文庫)

【獅子は働かず 聖女は赤く 5.かくして、あいつは働いた】 八薙玉造/ポンカン─.后璽僉璽瀬奪轡緤幻

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さらわれたアンナを取り戻すため、“裏切りの獅子”ユリウスは中央教会の本拠地である教都ノヴァリアを襲撃した。激戦の末、アンナを取り戻したユリウスだったが、“焔鎧王”マルテは損傷。その窮地を救ったのは聖なる黒竜と化したサロメだった。彼女の力でアンナと共にガルダ正統帝国に逃げ延びたユリウスだが、教皇ヴァルターはそれをきっかけとして、セレスター王国と共にガルダ正統帝国討伐の軍を挙げる。大軍と共に迫る四機の御使い。戦を阻止するため、ユリウスとアンナは傷ついたマルテ単騎で立ち向かう!竜と鋼と魔女のファンタジー時々コメディ、ここに完結!!

もはやヴァルターが名前じゃなくて「腰痛」が代名詞になっちゃってるあたり、これほど不憫なラスボスも滅多と居ないんじゃないだろうか、と目尻が熱くなってしまった。竜に変身したなら腰痛が解消されるなら、もうずっと竜で居なさいよ、と言いたくなるくらい。
でも、「腰痛」呼ばわりされてる頃のヴァルターの方が愛嬌があって良いキャラだったんですけどね。ラスボス足ることを選んでしまった彼の宿業は、自身の在りようすらも歪めてしまうほどのものであり、希望を標榜しながらもそこにサロメと同じくらいの絶望が垣間見えて、なんだか哀れですらあったのでした。すべてが終わった時、重石から解き放たれたような安堵が感じられてしまった事が、何とも哀しくてねえ。
すべて諦めてしまっていたサロメも哀しい存在でしたけれど、諦めることが出来なくて頑なに、それこそ腰をイワシてしまうほど頑張り続けたヴァルターもねえ、辛かったねえ、と終わってみれば労ってやりたい気分に。
もっとも、その頑なさにどれだけ血が流れたかを思えば苦しい所なんだけれど、全部が全部彼のせいなどではなく、教団の在りようなんてものは時代の趨勢なんて部分も大きかったでしょうしね。【赤き聖女】マルレーネの悲劇なんて、その際たるものだったのでしょうし。
だからこそ、ヴァルターのあのラスボス化はある意味逃れがたい教団の宿業を一度破壊し、時代を一つ進める役目を担ったとも言えるのではないでしょうか。ヴァルターのそれは、教団の宿痾の部分を全部背負い、残った教団の人々に人間として正しい道を選ばせる形になったわけですし。
魔女への迫害も、教団の独善性の暴走も、固定観念そのものもぶち壊していってくれたのですから。
尤も、それが為されたもの、アンナの呼びかけがあったからこそですし、その呼びかけに応えるだけの善性と人として正しい信仰が、セレスター王国や帝国の首脳部や、教団の騎士たちにあったからこそ、と思えば、この大団円はまさにみんなの勝利、だったんですよねえ。
壊れかけのマルテただ一騎で、教団の御使い四機と渡り合うことになる総力戦から、まさかの大どんでん返しとなる、残ったすべてのキャラクターの総力を結集した大々総力戦。ラストバトルとしては十分の盛り上がりだったのではないでしょうか。

さすがに、もうクライマックス一直線の佳境も佳境で、悠長にいつものキレキレの掛け合いに興じるコメディパートは少なくて、なによりいつものアンナさんのごきげん連続殺人未遂事件もなく、アンナさん真面目なほうに頑張ってて、噂の歩く超危険人物的には非常に大人しかったので、その意味では少々物足りないものもありましたが。恒例のサロメお師匠様弄りも、お師匠様一杯一杯すぎてできなかったですしね。
それでも、ようやくつかみとった平和の中で、十分アンナさん自由に暴れるがよろしいですよ。サロメ師匠の弄られポディションは、もう生涯変わらなさそうですけどw
完結、お疲れ様でした。

シリーズ感想