異世界迷宮の最深部を目指そう 2 (オーバーラップ文庫)

【異世界迷宮の最深部を目指そう 2】 割内タリサ/鵜飼沙樹 オーバーラップ文庫

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戦いを終えたカナミは『十守護者(テンガーディアン)』のアルティと再会する。
彼女の「恋を成就させたい」という依頼を受けつつ、迷宮攻略を再開するカナミ。
カナミは新たな仲間として火炎魔法を操るマリアと、類いまれなる実力を持つラスティアラを加え、ついに前人未到の領域に辿り着く。
しかし、順調に迷宮探索を続けるカナミの前に、『天上の七騎士(セレスティアル・ナイツ)』が立ちはだかる。
逃亡してきたラスティアラを取り返さんとする彼らに、カナミは決闘を申し込まれてしまうのだった。
「――お嬢様を、返してもらう」
運命の車輪はここから加速する――異世界迷宮ファンタジー、第二弾!

余裕が生まれると言うことは、必死に切羽詰まってがむしゃらにやってきた分、これまでは顧みる事の出来なかった部分にまで眼が、意識が行き届いてしまうという事でもあります。
生き残るために、元の世界に戻るために、迷宮の最深部に潜る為に、打算的に冷徹に他人を信用も信頼もせず、自分以外の存在はすべて利用するつもりで立ちまわってきたカナミですが、ディアと出会い、また自分の能力を研鑽して、この異世界で当面生きていく余裕、迷宮に潜る上での展望が開けたことで、なりふり構わずという必死さにしがみつくだけの余裕の無さも、当面解消されていったわけです。
そうなると、本来の彼の善良さ、または小市民性というものが頭をもたげてくる。本来の彼は、決して打算的でもないし、臆病で警戒心が強くても優しいたぐいの人間なのです。そういう人間が、意識的に利己的に、打算的に、他人を信用しようせず必要あらば切り捨てる事も厭わないような考え方をし続ける事は、自分自身に無理を強いるという事でもある。冷酷であろうとすることは、彼にとっては精神をすり減らすやりようなのだ。
もし、この異世界で出会った人間の大半が、悪意を以って彼に迫ってくるような人間ばかりならば、カナミも己を守る殻として針を生やしつづけたかもしれないけれど、幸か不幸か彼が巡りあった人たちは決して心根の腐った人ばかりではなく、むしろ善良と言っていい人たちの方が多かったであろう。そんな人たちに対して冷徹に常に利用するつもりで接し続けるというのは、小市民にとって心が疲弊してしまうものなのだ。
そのせいだろうか。この巻におけるカナミは、迷宮最深部に潜るためにすべてを利用するのだという冷徹さを維持できない。他者に対して情が湧き、情によって縛られ、しかしそんな自身に密かに安らぎを覚えてしまっている。他者を身内として自身の中に抱え込む事に、満たされたものを感じ始めている。
そんなカナミの姿は、自分の本来の姿とそぐわない在りように無理を重ねて痛々しさすら感じ、危うさを垣間見せていた以前からすると、むしろ安堵を伴う変化とも言えるのだけれど……。
残念ながら、恋を探求し続けるアルティも、奴隷であったマリアも、押しかけパーティーのラスティアラも、セラピー効果のある置物でも、心を慰めてくれる従順なペットでもないのである。他者を身内として抱え込むということは、決して甘い話ではない。彼女たちには各々に事情があり、思惑があり、理念がある。それは常にカナミの行く先と重なるわけではない。もっとも、それは人間関係における常道というものだから、難しく考えるものではないのかもしれない。でも、彼女たちが抱え込む情念はともすれば彼女たち自身ですらコントロール出来ない「火」を灯し続けている。それは、いつしか手の付けられない炎となって燃え上がる可能性を秘めた熾火であるのだ。
ディアが熟成しつつある妄執も、マリアの内に秘めた焦燥も、ラスティアラの自身も知らない人造の運命も、すべてが導火線に火のついた爆弾だ。知らず、カナミは火薬庫の中で松明を掲げ持つ少女たちとダンスを踊っている。
何もかもがわけもわからないまま、タイムリミットだけが提示された。残るは2日。聖誕祭、それこそがすべての始まりとなるのか、終わりそのものとなるのか。
カナミの中途半端な生き様への、決断が問われる。それでもなお、すべてを投げ打って守るのか……それとも、自身を壊しても切り捨てるのか。善意が、優しさが、好意が、むしろ針となって突き刺さり追い立ててくる。実に、心地良いダークファンタジーである。

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