メサイア・クライベイビィ 3 永遠を捨てる者 (集英社スーパーダッシュ文庫)

【メサイア・クライベイビィ 3.永遠を捨てる者】 八針来夏/黒銀 スーパーダッシュ文庫

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帝国打倒の旅の途中、とある少女を誘拐犯から救い出したセレス達。少女の名はスーシャ=オラーニエ。惑星ウルヴァシーの大統領の娘として生まれたスーシャには、ある重大な秘密があった。少女を巡り帝国の魔の手が伸びる中、セレスは誰も殺さずに内戦を終結させるという前代未聞の一大奇跡に挑む…!!泣き虫の救世主が贈る超ド級スペースオペラ、ますます絶好調の第三巻!!
これって、救世主に世界が、宇宙が救われる話というよりも、むしろ救世主であるセレスが人の持つ愛という感情に救われていく話なのかもしれないなあ。勿論、支配侯という精神生命体の脅威に対して、人類の範疇を超えた力を持つセレスの存在はまさに救世主のそれなのだけれど、そんな彼に対して人類は常に彼に救われるに足るだけの価値を示し続けている。
リューンやミカといった身近な人間だけではなく、セレスが出会った人間たちは、それが生身の人間だろうと遺伝子改造されたものだろうと、それこそ機械生命体という人ならざる存在だろうと関わらず、皆が人という種に希望と感動を抱かせるだけの愛の形を見せてくれる。それは親子の愛情だったり、仲間への愛情だったり、種を違えた友情だったり、と様々な形ではあるものの、まさに生命の賛歌と呼ばれるものだ。そんな愛によって生かされ、支えられ、励まされ、救われたセレスは、だからこそ宇宙を破壊しかねない凄まじい力を有しながら、同じように人を愛し、人のように泣きじゃくる。そして、そんな人の最も素晴らしい在り方である愛情を理解せず、一方的に踏みにじる敵を許さない。
今回のように貧富の差も絡んだ戦闘適応種と知性調整体という異なる階級たちの不平不満が募った上でのいがみ合い、という人の憎しみと怨み、そして各々の正義が絡んだ問題は、人の醜さが露呈する問題であり、感情が絡むが故に余計に悲惨になる話なのだけれど、だからこそそんな問題に対して裏から介入し、余計に問題を煽り拗らせ破綻へと差し向けようという悪意は度し難く、だからこそそれを犠牲を出さずに収めようという行為は尊いのだ。力があるから、何でも解決できるのではない。それを何とかしたいと切実に、必死に、身を粉にして奮闘する想いがあるからこそ、その根本に大切な人に幸せになって貰いたいという切なる愛情がこもっているからこそ、奇跡は起こる。セレスの力は、まさにその願いと祈りによって振るわれる聖剣であり、だからこそ愛が無ければ単なる破壊の力に過ぎず、それは救いも何ももたらさない。
セレスを救世主足らしめているのは、間違いなく彼に救われる人間たちが優しくも強い愛によってもたらした力であり価値なのだ。
一騎の機械生命体が幼き少女との交流の中で芽生え育んだ愛という感情が、回りまわって一つの星で吹き出しかけた人間同士の憎悪を吹き払い、この宇宙に蔓延る支配候という邪悪の存在を公のものとし、人類の敵とされて歴史の闇に消えた機械生命体の大勢力を、再び人類の絶対の味方として呼び戻す事に成功したのだ。
救世主セレスの誕生以上に、このウルヴァシーでのカイという機械生命体の示した光は、宇宙の歴史におけるターニングポイントだったのかもしれない。
このシリーズは、読めば読むほど人間って捨てたもんじゃない、という温かくも熱い気持ちにさせてくれる。その感動が、思わず目尻を熱くさせる。この物語で流される涙は、思わず溢れだしてくる涙は、悲しみのそれよりも嬉し涙や感動の涙の方がきっと大いに違いない。
さあ、ついに人類の態勢が整い始めた。人類の希望は、今此処に剣を掲げ、続々とその下に人の持つ愛と希望と可能性の素晴らしさを知っている者たちが大挙として集ってくる。
反撃のはじまりだ。

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