CtG ─ゼロから育てる電脳少女─ (角川スニーカー文庫)

【CtG ─ゼロから育てる電脳少女─ 】 玩具堂/bun150 角川スニーカー文庫

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VRMMOゲーム「CtG」で、春日井遊は初対面のミーファと気楽に“結婚”する。でも娘のハルハが生まれて、まさかの子育てスタート!?しかも
「きたよ、おとーさん!」
「く、釘宮です」
なんと現実世界にも、実物のハルハとミーファの中の人・釘宮美遥が登場!実はハルハは秘密の計画で創られた“新しい人類”だったのだ!!遊と美遥は、現実とゲームの両方で、人類の未来に関わる(?)壮大な少女育成に巻き込まれて!?

これはガチ修羅場の予感!!
あらすじだけ見てると、ネットゲームで知り合った女の子とリアルで生活するようになって一緒に子育て、とまあ緩い感じのラブコメみたいに見えるんだけれど、そこはそれ【子ひつじは迷わない】の玩具堂さんである。コミカルでありながら、その心理描写はさながら「なだらかに斬る」という風な切れ味の青春小説の雄。とてもじゃないけれど、頭を空っぽにしてドタバタラブコメを楽しむ、なんて気楽に構えては居られない。
相変わらず、語らずしてその内なる心を表現する、という手練手管は健在で、釘宮美遥と春日井遊の急接近に動揺する小槌冬風と、遊と冬風の微妙な気持ちの交感に気づいていき複雑な心境を募らせていく美遥の、この想いの醸成が実に素晴らしいんですよね。
遊のVRMMOゲーム「CtG」との関係も一筋縄では行かなくて、この主人公は唐突に訪れてしまった家庭の大きな変化に、未だ適応出来ないまま必死に決着をつけようと足掻いているさなかで、今回の一件に遭遇してしまった訳ですが……彼自身が思っている自分のことと、冬風から見た彼の母親への感情から今の状態に至る様々な事情の認識の差異。これは冬風との今の距離感にも繋がっていて、実は遊は冬風に対して……という感情の向きも含めて、この二人の間だけでも話を作れるに十分なくらいに絡み合っているところに、さらに複雑な家庭の事情を背景に持つ美遥が、本来ありえないベクトルからこの二人の間に割り込んでくる事になるわけです。美遥は最初、割り込んでいたという事実認識すらない状態からはじまったお陰で、ハルハの件も含めて心情的にシッチャカメッチャカに引っ掻き回されることにもなるんですが……いやあ、この三人のまだ何も始まっていないが故にこれ以上無くこんがらがってしまった三角関係が、もう素晴らしいの何の。
と、ここにVRMMOゲーム「CtG」が深く深く絡んでくるんですよね。ハルハの存在の重要性は此処にある。遊にとって「CtG」はもはや逃れられない因果であり、そこに秘められた自分との因縁を解き明かさなくては前にも後ろにも進めない。そこに、ハルハという「娘」の存在によって、美遥との関係ももはや精算出来ないものになっている。いずれにせよ、「CtG」は間違いなくこの青春劇の要となっているわけです。国家が絡む陰謀も、そのヘヴィーさに拍車を駆けているわけですが、冬風もまた遊と「CtG」の関わりの深さと重さを知るからこそ、今までそれを忌避し、そして今自分から飛び込まざるを得なくなっているわけで……。
面白い……。
ぶっちゃけ、ゲーム内でのバトルは程々程度の味付けでいいと思うので、それ以上に濃厚に少年少女たちの気持ちのぶつけあいにスポットを当ててほしいなあ。やっぱり、この玩具堂さんはこの辺りの機微にこそ、その図抜けた筆力を発揮する人だと思うので。