着ぐるみ最強魔術士の隠遁生活 (このライトノベルがすごい! 文庫)

【着ぐるみ最強魔術士の隠遁生活】 はまだ語録/しゅがすく このライトノベルがすごい!文庫

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魔術士の名家に生まれながら、魔力を持たない“黒髪”として蔑視されてきた夢野幸太郎。両親の死をきっかけに、彼は血の繋がらない双子の義妹二人をつれて、田舎で静かに暮らすことを決める。しかし、なぜか幸太郎は熊の着ぐるみ姿になっていた!戸惑う姉妹との奇妙な共同生活が始まる!強力な魔術士でもある姉妹と落ちこぼれの兄の暮らしはうまくいくのか?第5回『このライトノベルがすごい!』大賞・最優秀賞受賞作!
これって主人公、着ぐるみの方じゃなくて双子の姉妹の方じゃないですか。【着ぐるみと暮らす双子の隠遁生活】じゃないですか。タイトルやあらすじを見ていると、田舎に引きこもって義理の妹二人とのんびり過ごすゆるふわ系イチャラブ作品に見えるんですが、実際はこれかなりハードモードなんですよね。義理の妹二人との関係も、最初は極めて険悪ですし。疎遠どころか、不信と嫌悪を向けられている状態からのスタートですからね、正直面食らったくらいで。
社会性についてのアプローチやメッセージも非常に強い作品でもあり、差別意識、特権階級、貴賎の価値観などといったこの作品における社会の有り様が、姉妹と幸太郎の関係や考え方、ひいては物語の進む方向にも強く影響を与えていて、切っても切れない物語の中の重要なキーワードにもなってるんですね。その上で、単純かつ安易にみんな平等なのが正義、みたいな幼稚な帰結に収まらず、厳然とした格差の存在を認めた上でそこから生じる大きな責任をどう果たすべきか、また大きすぎる責任ゆえの負担から生まれる「不幸」を、「絶望」を……つまり、弱者の救済のみならず、強者であるが故に生じる悲劇をどう救うのか。強い者は弱い人のように救われてはいけないのか。誰よりも強い人は誰によって、何によって救われるべきなのかを、真っ向から真剣に、真摯に取り扱っている作品でした。
強いことは悪いことじゃないし、どんな人間にだって幸せになる権利がある。その人が、愛されているなら尚更に。誰かの幸せを願えるというのは、とても幸せな事なのだろう。そんな人が居るというのは、とても幸せな事なのだろう。そんな家族が居てくれるというのなら、そこにもう幸せの萌芽は存在する。
幸太郎が姉妹に注いだ愛情が、姉妹によって幸太郎に返ってくる。そうして照らされた幸太郎の周りには、彼の幸せを願った両親や祖父の愛情がちゃんと残って輝いていたのでした。
家族ってのは、やっぱり掛け替えないものだわなあ。
歯ごたえのある、じわじわと心に沁み込んでくる良作でありました。