異界の軍師の救国奇譚 (2) (角川スニーカー文庫)

【異界の軍師の救国奇譚(フェアリーテイル) 2】 語部マサユキ/明星かがよ 角川スニーカー文庫

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持ち前の『オカンスキル』を駆使して、なんとか昼食会を成功させた大地耕。これで一安心と思っていたのに、再び現れた女神ルーチェが新たな課題を言い渡す。
「今回のミッションは隣国の財政問題解決です!」「…は?」
隣国エクレア王国の財政破綻を解消できなければ、ティアの滅びの運命は変えられない!しかも今回はアリーシャ王女の運命にも影響が出るらしく…!?逆三冠王状態の主人公が挑む、異世界救国奇譚の第2弾!
相変わらず全然軍師していなくて、やってることはプロデューサーかはたまたコンサルティングアドバイザー、てなものなんだけれど、何の特殊な能力もなく元の世界で地道に築き上げ蓄積してきた知識と発想だけを武器として、まだまだ自信のモテないティアを盛り立てていく耕のプロデュース力の素晴らしい事素晴らしい事。彼の一番いいところは、ティアを含めて周りの人間たちみんなを巻き込んで気持ちを盛り上げていくその明るさなのかもしれない。彼の盛り立てによって、みんながこれなら出来るんじゃないかと前向きになり、また本来関係ない人たちもちょっとこれは手伝ってあげようか、力になってあげたいな、と思うようになり、次々と協力の輪が広がっていく。そして、そこには屈託のない笑顔が誰の顔にも浮かんでいる。この読み終えた時の、ほんわかと胸が暖かくなる多幸感は、パないです。思わずこっちまで相好を崩してニコニコしてしまうような、そんな幸せな気分にさせられる。
実際、起こっている問題はかなりシビアで際どいものばかりで、その内実を見ると民族問題や個々の人間関係のすれ違い、悪意に傾く寸前の負の感情の連鎖に権力のパワーゲームが絡んで、もうすぐにでも悲劇と惨劇が入り混じったハードモードの戦乱期に突入しようか、という瀬戸際であるんですよね、これ。
そして、本来の歴史では多くの人々が努力の甲斐なく犠牲となり、その結果としてティア王女は孤高の英雄として戦乱の世で血塗れていく姿が、幕間で描かれるのですけれど。その在り得たであろう血塗れの歴史が、尚更に耕たちが手繰り寄せたこの笑顔一杯の平和な世界の掛け替えのなさを痛感させてくれるのです。ただポワポワと脳天気な、お花畑な世界なんかじゃなく、一つ間違えればこんなに冷たく救いのない世界が手ぐすね引いて待っているのだ、という事実が突きつけられることで、ビシッと引き締まるものがあるし、またここで結ばれてい融和が、温かな感情が、素晴らしい人間関係がどれほどの珠玉の価値を持つものかを噛みしめる事が出来る。良い作り方してると思いますよ。
畏怖と共に語られてきた火竜の一族が、打ち解けてみると実は結構緩い人好きな付き合いやすい連中だったり、精強なはずの城の兵士たちが触手との戦いで見せた内訳が、なかなか良い根性wしてたり、とモブ連中がまたみんないい味を出していて、だからこそ彼らがいざという時、一致団結して一つの危難に立ち向かう事になった時の盛り上がりが、やっぱり違うんですよね、ただ中心となるティアやアリーシャたちだけが頑張るのと違って。みんなで頑張り、みんなでやり遂げた、という一体感や達成感があって、そこに広がる心からの笑顔に共感して、すっごい多幸感が沸き上がってくるわけです。
いやあ、面白かった。似たような傾向の作品はいっぱいあるはずなのですけれど、決して他の作品と違う特別な展開があるわけじゃないのだけれど、語り口の違いなんだろうか、表現の仕方の違いなんだろうか。こんなに幸せな気持ちにさせてくれる作品は滅多ないんではないでしょうか。
キャラもみんな立っててイキイキしてるし、キリカさんとククールの脇を固める人たちも独自に話を広げてきてるし、さらにバックではまた蠢いている勢力あり、と大きな枠組での話も盛り上がってきてますし、これは作品として波に乗ってきてるんじゃないでしょうか。これからに大きく期待したい作品になってきました。オススメ。

1巻感想