スチームヘヴン・フリークス 2 (ガガガ文庫)

【スチームヘヴン・フリークス 2】 伊崎喬助/凱 ガガガ文庫

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“トライデント”最後の矛、シルフ登場!

犯罪者を追いかける過程で再びトライデントと激突したバスカーズ。そのことがきっかけで、ニコラスとザジは小さな仲違いをしてしまう。翌日、ささくれだった気持ちで街を行くザジに声をかけたのは、銀色の髪の女性――エレンディラ・サンチェスだった。
気さくな性格のエレンディラと、ザジはすぐに打ち解ける。聞けば、彼女もトライデントと何らかの確執をもっているようで……?
一方のニコラスは、犬猿の仲であるウンディーネとともにさる要人の警護にあたっていた。ザジは不在、サラマンダーは謹慎中で、トライデント最後の矛であるシルフは雲隠れ。お互いに“相棒”を欠いたまま仕事にあたるが―― そのとき、アルラウネと名乗る怪人による銀行襲撃事件が起こる! 現場に居合わせたザジとエレンディラ。駆けつけるニコラスとウンディーネ。そして暗躍するディスコルディアの影――。

いま、“蒸気天国”を舞台に新たな狂劇の幕が上がる! スチームヘヴン・ファンタジー第2弾!
これって、ザジはヒロインというよりも主人公してるように見えますね。1巻で過去から引きずっていた因縁、怒り憎しみ、切ない親愛の入り混じった複雑な感情に決着をつけ、優しい決別で思い出となった男を送り出す事で自分の中にも区切りをつけたザジ。そう、過去を精算すると途端に現れるのは「現在」なのですよ。過去を振り払い、そこで決め込んだ目的を果たすために邁進してきた彼女ですけれど、目的を果たすという決意は変わらないものの、ふと周りを見回す余裕というべきか、或いは気が抜けた瞬間が訪れるわけです。その時になって気づく、相棒であるニコラスと自分との関係。目的を果たすためのパートナー、それは仕事上の相棒であると同時に、信念を支えてくれる信頼できる相手ではあったものの、後ろに引かれ前ばかり向いていた彼女にとって、ニコラスはいつの間にか居て当然の相棒となっていて、彼の事を良く知ろうともしていなかったことに気づくわけです。信頼はしている、信用もしている、しかし彼のことを何も知らない、どうして自分を助けてくれるのか、彼が必死になって求めているものについても、ちゃんと考えた事がなかったことに。
相棒である、彼。しかし、相棒とは何なのか、自分は彼に何が出来るのか、自分にとって彼は相棒、でしかないのか。
邁進してきた彼女にとって、一度立ち止まって考えこんでしまうことは惑乱に近いもので、思索するにしてもその方向をどこにむけるべきかもわからない。そんな時に出会ったのが、馴れ馴れしいくらいに無造作に、乱暴に懐の中に潜り込んできたエレンディラ。そう、ザジにとって初めての友達となる女性である。
親友、というザジが今まで得たことがない人間関係。それを識ったことで、改めて自分とニコラスの関係が「友達」とは少し違うものだとわかってくるザジ。目まぐるしく繰り広げられる派手なアクションの中で、実はかなり丹念に、丁寧に個々の登場人物の心情の移ろい、人間関係から生き様までが浮き彫りになるような描き方がされてるんですよね。これは、エレンディラことシルフと、ウンディーネ、ひいてはトライデントというチームの在りようについても一緒で、シルフが単なるサボり魔ではなく、自分の中の正義とトライデントというチームの価値観の違いに悩み、シンプルに割り切れないウンディーネとの友情に悩み、気分をささくれ立たせている時に、ザジというまた一風変わった女性と知り合い、友達になって彼女と一緒にトラブルに巻き込まれることで、ちょっとずつ考える事が整ってきたり、頑迷といっていいくらいの社会正義に固まっていると思われたウンディーネが、あれで柔軟に自分たちを鑑みて、シルフという異分子を求めていたり、建前を抜きにするとこの娘はわりとシンプルに友情を大切にしてるかはわからないけれど、掛け替えのないものに思ってる娘なんだ、とわかってきたり、あれでサラマンダーの無茶苦茶さは、大事なものとして認められてるんだと苦笑してみたり、と群像劇的でありながら、いやだからこそか、どのキャラクターも掘り下げをかなりしっかりとされてるんですよね。
表でド派手に忙しなく、奥でしっとり丁寧に、これはなかなか絶妙な描き方だと思いますよ。若干、女性キャラ優先のようにも見えますけれどw
ただ、今回はやや「仕込み編」だった感じもあり、物語の本筋としては小さめにまとめてあった気がします。1巻の内容からさらに倍プッシュ!的にスケールアップを期待していたら、ちと肩透かしかも。でも、その分ザジやトライデントを丁寧に描いていた、と思えば悪くはないんですよね。
だからこそ、仕込みが済んで、ある程度人間関係の調整を終えた次回こそは、さらに後顧の憂いなく大いに暴れる展開を期待してしまうところです。楽しみに待つとしましょう。

1巻感想