聖黒の龍と火薬の儀式<パウダーキス>2 (MF文庫J)

【聖黒の龍と火薬の儀式<パウダーキス> 2】 北元あきの/しらび  MF文庫J

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アンティークハンターの圭は姉の明からアイリスという少女の保護を頼まれる。スパイとして〈博物館〉に潜入していたが露見して追われる身だというアイリスは明から「圭に妹として可愛がってもらいなさい」と吹き込まれていたらしく、圭に密着してくる。圭は契約する銃のアンティークのヴィクトリアとの間に挟まれ、また悩みの種が増えたと嘆息する。同じころ、燈子は〈博物館〉との交渉の席で自らの命を対価とする取引に臨んでいた。その取引条件が「アイリスの引渡し」と知った圭は――!?
絢爛・猥雑入り乱れる街を疾走する魔法×銃のファイア・アクション第二弾!!
前作の【竜王女は天に舞う】でもそうだったのだけれど、北元さんの作品のノワール小説としての濃厚さはハッキリ言ってライトノベルの中では別格である。この裏社会の描き方、組織への忠誠と裏切り、個人の欲望、野心の相克の容赦の無い苛酷さ、苛烈さに関しては他の追随を許さない。辛うじて、ニトロプラスのノベライズ系統が並走するくらいか。
そして、死を与えまた与えられる生命が果てしなく軽く、組織への忠誠や生き様に対する信念がこの上なく重い黒く暗く闇深い汚泥のような世界観であるからこそ、何もかもを投げ打ち放り捨ててもなお貫く「愛」が輝くのだ。
命懸けの愛、身も心も髪の毛一本まで爪の先まで捧げ尽くす愛、世界を敵に回しても……これらのフレーズはただそれだけではひどく陳腐だ。しかし、その覚悟の背景にあるのが裏社会のマフィアや犯罪結社、国家の暗部である秘密機関だったりすると、一気に迫真性が変わってくる。殺し殺される組織同士の抗争が当たり前に繰り広げられる、どころか身内同士ですら寝首を掻かれる事を前提に立ち回らなければならない組織の中で、幹部にまで成り上がりながら、彼女は傲然と胸を張り、高らかにこう言い放つのだ。
「組織? 勘違いしてもらっては困るわ」
 橙子は鋭い眼光のままでにっこりと笑った。
「そんなもの、わたしの知ったことか」
痺れた、震え上がった。これ以上、苛烈で深く一途な愛情があるだろうか。彼女の生きる目的、いや生き様すべてがたった一人の男へと捧げ尽くされているのだ。彼のために生き、彼のために死ぬために、この少女はそれまでの人生を生きてきた。ただその為に、<商会>と呼ばれる組織の幹部へと駆け上がってきたのだ。
私は本当に、こういう女性に弱い。べた惚れ、と言っていいくらいに魅了されてしまうのだ。【月花の歌姫と魔技の王】のマーリア然り、【天川天音の否定公式】の長月瑛子然り。その強さを、輝きを、たった一人のために使い尽くす覚悟を胸に秘めた女性に、魂を引っ張られる。
そして、その覚悟は決して一方通行ではない。女性側から尽くされる献身と変わらぬだけの全霊を賭けた献身を、男性側からも捧げられる。そんな本当の意味で「世界を敵に回しても」決して後悔しないだろう絶対不可侵の男と女の関係。この作品においては、それは「鉄血の絆」と称される。
 地獄を寄り添って生きてきた二人の間には、血よりも濃い絆がある。
 特別なのだ。命を懸けることなど造作もない。

 そう、その関係は決して一方的であってはいけないのだ。それは絆ではない。与えられるだけの愛は、イビツでしかない。雨宮橙子は圭への愛に、深く深く沈んでしまっていたと言ってイイ。地獄の釜の底のようだった香港で生きるために。武器を手に取り、血を流す事も厭わず、圭の盾となり矛となり。見返りは求めない、彼のためにはなんだってする。尽くすという言葉では足りないくらいに。
その覚悟が、決意が、愛情が、圭の心を傷つけ、己を傷つけてしまう事になることもわからずに。


この物語を読むまで自分は、恋する気持ちが熟成され、愛という想いに昇華するものなのだと思っていた。それが正しい関係の発展なのだと、そんな常識に囚われて疑わなかった。でも、そうじゃない。そうとは限らない。

愛が恋へと昇華することもあるのだ。

雨宮橙子は、愛した男に恋をする。与えただけの想いを、求めても良いのだと、少女はようやく理解したのだ。雨宮橙子と朝霧圭の血よりも濃い鉄の絆は、そうして愛を経て恋へと至る。

これは、ドス黒い硝煙の香り芳しき、鉄血のラブストーリーである。


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