棺姫のチャイカ (11) (富士見ファンタジア文庫)

【棺姫のチャイカ 11】 榊一郎/なまにくATK 富士見ファンタジア文庫

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神を討ち滅ぼした“禁断皇帝”アルトゥール・ガズ。彼の次なる行動はシン、トール、ジレットに世界の三分の一を統べる王という『役目』を与えるというものだった。三つの勢力による未来永劫の戦争状態。世界を、再び戦乱の渦中へと戻す提案に対し、乱破師と騎士それぞれの応えは…。生きる目的、自分という役割、存在の理由。『棺担ぐ姫』と『従者の少年』。二人の旅路の終着点はもうすぐ―。壮大なる『チャイカ』サーガ、ついに完結!
結局、他者から課せられた役割から逃れられなかった者と、誰に与えられたものでもない「自分」という存在を掴みとった者同士の戦い、という形でガズとシン対トールとジレットたちという構図になったわけだけれど、面白いことに相手の在りように憤っていたのはトールたちの方なんですよね。ガズもシンは最初から与えられた役割の中に完結していたわけではなかったはず。ガズは神を弑逆しようと思い至ったのは自分に与えられた役割に不満を抱いたためだし、シンがハスミンを殺害し、乱破師失格という印を押したトールとアカリに執拗に乱破師としての生き方を説き続けたのも、思えばそれだけシンが乱破師という在りように心もとない不安を抱いてしがみつこうとしていたからではないだろうか。
それは、役割の中に収まるという事に対して、心揺れていた、ということ。
ところが、ガズもシンもその揺れの果てに自分自身で選んだ選択は、道具として生きること、システムに組み込まれるということ。それが彼らにとっての自由であり、安息であり、満たされた生き方だったのだ。満足してしまった彼らは、だから彼らと違った生き方を選んだトールたちに対して、怒りも反発も嫉妬も抱かず、トールたちが選んだ道に対しても、それを選んだトールたち自身に対しても、全く無関心で興味の欠片も抱いてなかったんですよね。
これだけ一方通行なラスボスと主人公サイドとの関係も、なかなか珍しいんではないだろうか。
実のところ、ガズやシンの生き方、役割の中に収まる事に充足を覚え、安心するという在りようは……さすがに自らを道具、システムにまで規定してしまうのは行き過ぎだとしても、決して全否定されるものでもないと思うんですよね。一つの選択として、そういう生き方があってもいいのかもしれない。
ただ、それを他人に強いるようになってはいけない。それを社会の正しい通念に規定してしまってはいけない。それは他者の尊厳を脅かす行為である。他者の在りようを踏みにじるものである。
結局、トールが許せなかったのは、そこだと思うんですよね。チャイカに貰った、掛け替えのないと思うに至った自分という在りようを、容赦なく踏みにじり、自分が輝いていると思った価値を否定する行為。ガズがやろうとしたことは、だからトールの逆鱗に触れたのではないか、と思う次第。
紆余曲折あって、ようやく掴んだ在りようだもんなあ。
それに比べて、ガズの方はやや哀れである。シン兄は、まだ自分を貫き通した結果、とも見て取れるけれど、ガズについては、自分の創造主に反逆するところまでたどり着きながら、結局自分を組み込んでいたシステムから離れることも飛び出すことも出来なかったわけですからね。出来なかったどころか、思い浮かべる事も出来なかったというべきか。彼は、螺旋階段を昇ることしか出来ず、その階段から外れるという事を思い想像する事すら出来なかった。ある意味、最終決戦の階段上に佇むガズと、自由な翼でその螺旋階段の周りを飛び回るトールたちの構図は、彼らの在りようの縮図そのものだったのかもしれない。

と、トールにしてもガズにしても、自分のレゾンデートルを失う事になったチャイカたちにしても、騎士として戦後世界での生き方に迷いをいだき続けていたアルベリックにしても、トールたちを観察し問いかけ続ける事で自己を探索していたフレドリカにしても、それぞれに自分の在りようを掴みとるまでに紆余曲折あったのに対して、ただ一人最初から首尾一貫して「アカリ」という自分を持ち続け、小動ぎもしなかったのがあの妹だったんですよね。ほんと、彼女だけは最初から最後まで一瞬足りともブレなかった。それが頼もしくもあり、微苦笑を誘う恐ろしさでもあり。ただ、そんな彼女がずっと側に寄り添い続けたからこそ、トールは安易に自分を投げ出さずに自分を探し続けることが出来たのかもしれません……結果として、チャイカと出会うまで相当のダメ人間になりかけてましたけど!

こうして、それぞれ個々に、自分の生き方というものに対して結論を出し、その結果として許容できない部分の衝突と生存を賭けて闘争が発生し、その点での決着はついたのですが……でも終わってない、これは物語として終わってないよ!!
棺姫のチャイカ一行の旅の物語としては、まだ決着付いてないよ、これ!!

というわけで、本編が終わってもまだもう少し続くのじゃ、という展開でして。もう一冊、後日談がつくであろう最後の短篇集を待て。
しかし、赤チャイカ一行は存在自体が死亡フラグだっただけに、最後まで生き残れてよかったよ。特に、随行のセルマとダヴィードは死亡率相当高そうだっただけに、感慨深い。

シリーズ感想