強欲な僕とグリモワール (HJ文庫)

【強欲な僕とグリモワール】 北國ばらっど/ハル犬 HJ文庫

Amazon

欲望に忠実な男子高校生&へたれかわいい悪魔による 世界征服(?)バトルラブコメ!

己の欲望に忠実な高校生・光橋誠二はある日、祖父が遺した魔導書から強欲の悪魔・マモンを召喚した。
さらに、誠二の魂を賭けた願い「女の子のおっぱいを揉みたい――」を叶え損ねたマモンを、“契約"ではなく“使役"できることに!?
喰って、寝て、エロいことがしたい!
欲塗れな男とへたれかわいい悪魔による、やりたい放題な世界征服が始まる!
昔は強欲な人なんていうと、最低な人間とイコールで結ばれていたものだけれど、近年は徐々に強欲というものへの捉え方が変わってきたように感じられる。もちろん、フィクションの中で取り扱われる上での話なんだけれど。
欲深いという在り方は、他人のものでも何でも自分のものにしたがって倫理や規範から外れる事も構わず欲するような意地汚い人間という、悪人の在りようとして捉えられていたものですが、昨今ではちょっと違うんですよね。
ナニカを欲する想いがあり、それが達成困難であり叶えることが難しくても、構わず欲して得ようとするなら、それは欲深い・強欲の括りの中に引き込める。たとえ、それが悪に類する欲望でなく、善人が求める正しくありたいという欲求だったり、幸せになりたい、という想いだったりしても、それが難しければ難しいほど、その難度に比して求める意思、得ようとする想いが強ければ強いほど、強欲といわれる余地となる。
この作品の主人公である誠二もまた、世界をまるごと自分のものにしたい、と常日頃から思っているほどに欲深い人間でありながら、その為に他人から理不尽に奪ったり傷つけたり虐げたりは絶対にしないのだという規範を心の芯に貫いている、途方もなく多くを求めながら徹底して手段を選ぼうとしているという意味でも実に欲深い人間だ。
人間、何かを手に入れるためにはその一方で妥協し諦めなければならない。しかし、彼はその妥協を良しとしない点において、この上なく強欲なのだろう。自分に正直であり他者に対しても誠実でもある。その上で必要とあらば自分の心身を削ることを厭わない潔さを持っている。彼は多くを欲すると同時に、同じくらいだけ相手が欲するものを与えることのできる人間なのだ。
ラブコメにおける一つの指針として、私は主人公のカッコよさがあると思う。外面の良い優しさではなく、芯の強さだ。これがあってこそ、ラブという時に重たいくらいヘヴィなものを、軽妙なほどコメディタッチに引っ張る事のできる気持ちのよいパワフルさが発揮されるというもの。もっとも、逆に主人公がこの上なくヘタレで格好悪くても、料理法次第でいくらでも面白くなるのだから、結局のところ書き手の巧さに寄るのだろうけれど。
ともかく、この主人公である誠二は、馬鹿だけれど気持ちのよい自由なバカで、だからこそカッコイイ。でも、その馬鹿の持つ志に色を与え実を与え、意味を与えて芯とするのはマモンというヒロインの存在であり、彼女とのふれあいだ。二人はだから正しく対等の相棒であり、だからこそお互いに与え合う関係の中で恋という名のが芽生えるのに何の不思議があるだろう。
本作は、料理法としては、実につまらないくらいのオーソドックスで味気のないテンプレだ。だけれど、その手管は実に地に足の着いた軽妙さで、物語の体幹にブレを感じさせない揺るぎなさがある。そこで描かれるお馬鹿な自由人たちの紡ぎだすそれは、だから素敵なくらい気持ちのよいラブコメだ。
新人作品としては、まず文句なしの良作である。