筺底のエルピス (ガガガ文庫)

【筺底のエルピス】 オキシタケヒコ/toi8 ガガガ文庫

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殺戮因果連鎖憑依体――

古来より『鬼』や『悪魔』と呼ばれてきたその存在は、感染する殺意であり、次元の裏側から送り込まれた人類絶滅のプログラム。
日本の暗部である《門部》は、不可視の存在を網膜に投影する改造眼球『天眼』と、時を止める超常の柩『停時フィールド』を武器とし、そのプログラムを追い立て、狩り、そして葬り続けてきた鬼狩りの組織だ。

時は現代。

百刈圭(ももかり・けい)と、乾叶(いぬい・かなえ)――心に傷を抱えて戦う二人が遭遇したのは、歴史上、たった六体しか確認されていない《白鬼》だった。
叶の親友に憑依したその鬼を巡って組織が揺れる中、黒ずくめの刺客《ゲオルギウス会》が動き始める。それは日本を守護する《門部》と同じように、ヨーロッパで連綿と戦い続けてきたもうひとつの鬼狩りの組織――バチカンの狩人たちだった。

《白鬼》とは何か。二つの組織の衝突はいかなる戦いを引き起こすのか。そして、滅亡を防ぐ希望はあるのか。

人類の存亡をかけて戦う、影なる戦士たちの一大叙事詩が、いま語られる。
伝奇ものかと思ったらSFだった! 古来より鬼や悪魔と呼ばれたきた存在は、宇宙人の仕業だったんだよ! なんだって!? なんて煽りにしてしまうと、途端に胡散臭くなったり、どこか昭和テイストな怪奇モノの風情となってしまうのですが、本作はそのあたりを上手いこと現代風にアレンジしていて、これが実に面白い。
最初は、ヒロインの叶は家族を鬼に殺されて復讐心を抉らせて完全に心閉ざしてしまっているわ、圭の方も実力はあっても、門部の当主となっている妹の特殊な状況を前に妹とちゃんと向きあえていないわ、相棒となった叶への接し方もおっかなびっくりもいい所で、もうちょっとしゃんとしなさいよ、と言いたくなるようなギクシャク感あふれる人間関係で、血なまぐさい鬼との戦いに既に絶望的結末が決定している状況といい、これはひたすら暗くて救いのない、読んでいて息苦しいダークな話になるのかなあ、と若干構えていたのですが、空気が変わるのが丁度、叶の親友の娘に「白鬼」と呼ばれる鬼が憑依しているのが発覚してから。
自分の命すら顧みない破滅的な復讐に全霊を傾けていた叶に、何としてでも守らないといけない人が出来た途端に劇的なくらいにドミノ倒しに、ひたすら沈んでいくようだった空気が、噛み合わなかった人間関係が気合の入った「戦う空気」へと変わっていったんですよね。前向き、というのとは少し違うんだけれど、過去の悲劇を引きずったまま未来の悲劇に溺れていくようだった雰囲気が、叶の「守りたい」という意思が生じたことで全体に目の前に塞がる悲劇と絶望の壁を切り拓く、という光が灯ったような空気になったわけです。そうなると、圭の方もやること、叶に対して気にかける事がスッキリとして、主人公というよりもこの場合は叶にとってのヒーローのような、存分な活躍を見せ始めるのです。
未熟な自分を呪うのではなく、親友を守るために知恵を絞り、自分の限界を突破して悲劇を乗り越えるためにあがく叶は、そして自分たちの危機を幾度も助けてくれる圭に憧れと慕情を抱いていく彼女は、見事にピチピチに弾けてるヒロインになっていくんですよ、これ。
うちにこもっていた性格も、この事件を契機に心に傷を負う前の快活な姿を取り戻していって、それがギクシャクしていた圭の妹への態度へも良い影響を与えるようになって、とお互い影響しあって良い方向へと向かっていく流れは、読んでいても心湧き立つものがありました。何気に、親友の女の子もさらっと重要なポディションに収まって、ちゃっかりヒロイン枠に収まるあたりは意外でしたけれど。
面白いのが「停時フィールド」という技術を活用した、それぞれ門部やゲオルギウス会の面々が一人ひとり持っている特殊能力。みんな「停時フィールド」という特性を元にしつつも、違った能力なんですけれど、これが使い方が捻ってて面白いんですよね。漫画の結界師、のそれと傾向が似てるんですけれど、制限があるが故に発想の自由さが生まれるというのか、戦闘の中でみんなあれこれ試行錯誤して思わぬ使い方を導き出すとかもしていて、こういう発想を生かしたバトルはうん、面白いですわ。単に戦闘面に限らず、世界観の設定……鬼の正体や門部・ゲオルギウス会の起源、人類滅亡の危機の真実、など舞台設定もなかなか引き込まれるものがあり、うんうんこれは面白い作品が出てきましたよっと。