サングリア ‐In the Dracuria earth ‐ (2) 月黄泉‐MOON HADES ‐ (角川スニーカー文庫)

【サングリア ‐In the Dracuria earth ‐ 2.月黄泉‐MOON HADES ‐】 高野小鹿/だぶ竜 角川スニーカー文庫

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全世界に気づかれてしまった芦田土萌華の存在により吸血世界は変貌を遂げた。しかし注目の的である(吸血鬼殺しの)少女は相も変わらぬ学生生活を送っていた。尚も過熱報道が続く中、土萌華のもとに、ある1通の“会食の招待状”が届く。その差出人は第三の始祖・迦喰夜。それは半吸血鬼の少年・宝泉聖の母を殺した宿敵で―!?絶滅したはずの人間が現れ、世界の血がざわめく―。
バカが三匹揃うと三馬鹿だー! これが男の三馬鹿トリオだと嫌だけれど、女の子の三馬鹿トリオだとなんだか許せてしまう不思議。まあここで揃ってしまう三馬鹿娘たちは、いわゆるどうしようもない愚か者であるところのお馬鹿ではなく、単に頭が悪くて難しい事を考えられなくて空気読めない、というだけの可愛らしいお馬鹿なので、むしろ愛され系なのである。ほんとか?
人間が絶滅し吸血鬼しかいなくなった未来世界に、ただ一人の人間の生き残りとして冷凍睡眠から蘇ってしまった芦田土萌華。クルースニクとして作り上げられ人類の敵である吸血鬼を殺す兵器として育てられた彼女だったが、目覚めた世界では人類とは人間ではなく吸血鬼であり、人類を守るために吸血鬼を殺すことは守るべき人類を虐殺する事になる、という矛盾を前にして、難しい案件に直面すると思考回路がショートしてしまう土萌華はフリーズしてしまい、そこにつけ込んだのが半吸血鬼の宝泉聖であった。彼に助けられ、面倒を見てもらい、戸惑う環境の中で優しくもしてもらい、さらに彼の哀しい境遇や実は彼の母親が自分の友人であった事を知り、土萌華は恩を受け、何だかんだと親しくなり情も湧いた聖を自分の力で助けることで、自分の存在意義の矛盾による消失をとりあえず乗り越える事になった。のだけれども、土萌華は自分の存在が吸血鬼を殺すためのものである、という事実をこの吸血鬼しかいない世界の中で持て余す事になる。優しい彼女にとって自分が、今の世では普通の人達である吸血鬼たちを殺すための兵器であるという事実そのものに、どこか罪悪感を抱いているようだった。ただでさえ人間である自分の存在は周囲から受け入れて貰えるものではなく、真実はさらに彼女が異端にして人外であり排斥されかねない存在であることを示している。だから、学校に通い続けながらもどこか諦めを、学校だけではなく世界に対して孤独である事を飲み下そうとしていた土萌華の前に現れたのが、空気を読まない、頭の悪い馬鹿であるところの梨一子であり夜光という二人のクラスメイトだったわけだ。
人間と吸血鬼という枠を超えて……という以前にその違いをハッキリ理解しているのかも定かではない頭の悪さを発揮して接近してきた彼女たちと、元々難しい事を考え続けるのも難しい土萌華はあっさりとシンクロして仲良くなってしまう。それこそ、十年来の友人のように。
それでも、幾つかの事件を通じて、土萌華はやはりどうしても人間と吸血鬼の大きく隔てられた壁が存在するコトを痛感しながらも、この世界ではじめて出来た「友達」という存在を前にして決意する。いや、自らの存在理由を再設定するに至った、と言っていいかもしれない。すなわち、人類を守るために吸血鬼を殺す兵器である自分の力、大切な友達を守るための力としようと。その友人が、たとえ自分が兵器として殺さなくてはならないとされた吸血鬼であろうとも。
馬鹿な子は、頭が悪くてなかなか道も定まらないのかもしれませんけれど、決して儚くも弱くもないのでしょう。ハラハラと心配そうに見守る聖をよそに、土萌華は概ね一人でこの世界における自分の寄って立つモノを手に入れました。こういう子は、自分の考えや指針に自信を持ちきれず定まらないからこそ、一度芯を通して意思を固めてしまうと、本当に強くなる。一度固まっていたものを崩して、柔らかくしたところからやり直しているから尚更に、その強さは靭やかで頼もしい。
むしろ、頭が良くて頑固で自信家である聖の方が、その強さにはガラスのような脆さも内包していると言っていいのではなかろうか。幼いころに焼き付けられた復讐心が、その強さをより硬いものにしてしまっている。
その意味では、土萌華の軟さは聖のよいクッションになっていたと思うし、在りようの定まった土萌華の強靭さは聖の必要以上の硬さをカバー出来て、当人たちが思っている以上に良い相棒同士だとは思うんだけれど、それでも主導権を握るのは頭脳担当の聖の方なので、聖が暴走してしまうと土萌華はそれを止められずに引きずられてしまう。
迦喰夜との不用意すぎる衝突は、その最たるものなのでしょう。聖って、自分が思ってるほどクールじゃないからなあ。むしろ激情家ですらあるし、決して冷静な思考をコントロールできているわけではないのが今回、顕著になってしまったし。それはそれで、若者らしくていいのだけれど。
いやこの場合は、むしろ行き着くところまで突っ走ってしまうのも悪くないのかもしれない。どこまで走っても、今の土萌華ならどこまでも付いてこれるだろうし、離れないだろう。聖がどう頑張っても走れなくなるまで走りきって、無理矢理にも進めなくなってそうしてようやく、傍らを振り返る段になっても、今の土萌華ならそこに居ることが出来るだろうから。
しかし、感触からして迦喰夜はあんまり「黒」って感じはしないのだがなあ。どこかに、錯誤があるような気がしてならない。

1巻感想