おいしいサンドイッチの作り方 スタンバイタイム (ファミ通文庫)

【おいしいサンドイッチの作り方 スタンバイタイム】 やのゆい/U35 ファミ通文庫

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一杯のコーヒーが、僕をモブからシェフにした。
誰でも作れる、本格的サンドイッチラブコメ登場!


「特別な自分になってみない?」
モブから脱却すべく高二デビューを目指す草加雄馬。始業式の日に一緒に帰ろうと誘ってくれた剣道部のエース吾妻剛毅、そしてもう一人下校に加わった文坂記子と過ごした時間をもう一度、と願いつつも彼は自分に自信が持てない。そんな時、あの日三人で飲んだ、衝撃的においしいコーヒーを淹れた美人店長、天宮甘美が雄馬にビシっと問いかけてきて――!?
恋も友情もリアルにおいしくはさみ込む、本格的サンドイッチラブコメ!

前作に引き続き女の子の主人公で、という希望はかなわなかったものの、期待通りに面白かったー! この人の描く作品って、恋愛に対しても友情に対しても今回については「働く」という事に対しても、物事に対してとても本気で真剣であると同時に、その向き合う姿が凄くキュートなんですよ。
軽妙でコミカルなノリが、ともすれば真剣であるからこそギスギスしかねない展開に弾けるような力強い柔らかさをもたらしてくれてるんですよね。この感性は独特のもので、大きな武器だよなあ。
帯の煽り文なんかを見るとガッツリとした料理モノに見えてしまうんですけれど、料理云々じゃなくてこれは「カフェ」という空間そのものの演出、というものを強く志向している作品ですね。なので、主人公の雄馬が特筆すべき能力を見せるのも、サンドイッチを作るという単品ではないのです。勿論、メニューを考え実際に自分で何度も練習して、サンドイッチという一見簡単に出来るものを妥協すること無く突き詰めて完成させていく、という料理に手を抜かない姿勢も、雄馬には備わっているのですけれど、彼が天宮店長に見染められたのはそれだけではありませんでした。その一部始終は本編にて堪能してもらうとして……天宮店長も時給880円で求めるレベル高いなあ……。いや、折々につけて特別料金弾んでくれているみたいですけれど、雄馬くんのそれはアルバイトレベルの働きじゃないですよ。能力的なものだけではなくて、自宅で研究を重ねる向上心といい本職でも果たしてこれだけ頑張れる人がどれだけ居るか。
まあ彼の場合、それだけ頑張れたのはお金の為ではなく、天宮店長の下で学ぶ事の楽しさ、充実感もさることながら、店長が餌に垂らしてくれたカキコちゃんとの恋愛問題サポートが大きかったのでしょうけれど。実際、天宮店長の助言やさりげないサポートは効果的なものばかりで、思わずこっちも感心してしまうものばかり。さすがは大人の女性、恋愛経験も人生経験も豊富なだけあるなあ、とその頼もしさに惚れぼれさせられたものでした。
……普通、大人だと思うよねえ。
いやあ、てっきりガチで20代後半とは言わなくても、25前後。最低でも大卒直後くらいだと思ってた。オーナーは別に居るとはいえ、店長として一人で店を立ち上げるまでの準備をやってのけてたり、カフェの経営に関しての見識も非常に高くて、以前どこかのカフェで経験積んできたような貫禄ありありだったし、何よりあの抜群のコーヒーの腕前。うん、どう見ても雄馬たち高校二年生と比べると一回りも二回りも上だよね。
しかし、そうかなるほど。あのカフェとしてもどうも遅めの経営時間は、こういう理由もあったのか。いやあ、立地条件とか鑑みても、午後三時くらいから店開けておく方が普通だもんなあ。
さて、天宮店長、まるでヒロインという認識なかったんですけれど、これはもしかして店長ルートもあるのかしら? 今のところ、雄馬くんはカキコちゃんに夢中であり、それを天宮店長も全力で応援していて、なおかつカキコちゃんの方も青信号、という状態なのだけれど。
これで順風満帆じゃない、というところに恋愛の難しさがある。こじれているわけではなくて、微妙なさじ加減の違いが重なって、というあたりが面白い。実に面白い。
このカキコちゃんがまた、本気で可愛いのよ。カキコちゃんも雄馬もどちらかというと内向的、みたいな紹介をされているけれど、決してそういうわけではなく、二人共結構アグレッシブなんですよね。それとも、よほど二人の相性が良いのか、結構二人きりで行動する事になる場合も多いのですけれど、決して気まずい雰囲気になることもなくて、会話も弾んで、それどころか甘酸っぱい空気になることもしばしば。
さり気なくカキコちゃんが攻めるのよ。どれだけ勇気振り絞っているかわからないんだけれど、もうドキドキしてるのが伝わってくるような仕草や表情で、押すわ押すわ。その時のカキコちゃんの様子が滅茶苦茶キュートなんですよね。
お互い、一緒にいるとき本当に幸せそうだったんで、この二人にはうまくいって欲しいなあ。とはいえ、親友となる剛毅がまた不器用でまっすぐで良い奴なので、彼も報われる形でうまいこと収まって欲しいものです。

あと、作中でズキューンとハートを撃ち抜かれたのが、闘うバトル書道部のシーン。半紙に墨で書き殴られる必殺技の応酬には、思わず「おおぅっ!」と唸ってしまいました。書かれた必殺技の名前の、文字の力強さ、巧さ、迫力によって勝敗が決するバトル書道。これは男の子心が擽られますよ。
書道部のシーンは毎度の定番にして欲しいなあw

やのゆい作品感想