死線世界の追放者 (2) (富士見ファンタジア文庫)

【死線世界の追放者(リジェクター)2】 ミズノアユム/カスカベアキラ 富士見ファンタジア文庫

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英雄に討伐されたはずが平和な世に甦ってしまった、破戒王四天王のひとりウルズナ。彼は、自分の復活のキッカケとなった少女シアリーと共に、破戒王の遺物を探して各地を巡る。畏光の都プロセア。闇を司る四天王ヴィーヴィルに因縁の深いこの街に、求めるものがあると訪れたウルズナたち。しかし到着早々―「立ちはだかるというなら薙ぎ払って進むだけだ」「出来ると思うの?守護者である私に、この禁戒地の中で」光を食らう死線獣『硝亡』から街を守る少女カノンと諍いに。更にはヴィーヴィルを名乗るモノまで現れる。そして、破戒王すら滅ぼせなかった大いなる災厄が覚醒め―。
なるほどなあ。うーむ。いやね、本作の世界は長い長い戦乱の時代を経て破戒王という巨悪が勃興して世界征服しかけ、それを英雄たちが倒したことで平和が訪れた世界なわけです。特徴的なのは、戦乱が終結して十年、英雄たちが見事なくらいに平和を維持し、ほころびを見せるどころかより堅牢なものへと仕上げていっている世界である所なんですね。戦いによって支配を打ち破った英雄たちでありながら、同時に統治者としても優れていた、という珍しいパターン。この統治は本当に文句の付け所がなくて、英雄たちも人品優れた人物であり、ぶっちゃけ旧支配者であるウルズナが復活したところで、付け込む隙は微塵もなかったわけである。実は悪と断じられた破戒王がイイ人で、偽りの平和を打破して真の平和を、なんてパターンじゃなかったんですな。
じゃあこの話は何なんだ、というと難しい所で……やっぱり過去をいかに冷静に、客観的に総括するか、という話なんだと思うんですよね。悪と断じられている破戒王とその一派は実際その性向は悪と言って過言ではない連中ではあったのですけれど、では彼らがやった事はすべて否定され、悪行とされ、許されざる存在だったのか、というと決してそういう訳ではないのです。図らずも無辜の民を助けたこともあり、また戦乱によって疲弊し続けていた人類の歴史を推し進めるために、破壊王一派の存在は必要なファクターでもありました。また、彼らは破壊のみを志向したわけではなく、それぞれに思う所あって世界にその力を差し向けたのですが、果たしてそれは全否定されるものだったのか。たとえば、ウルズナはあれで彼になりに世界に平和をもたらそうと考えていたことが明かされている。行政的にも、破戒王の執政には後々に影響を与えているものもある。
だから、肯定するべきところもあるんだよ、と擁護すると、それはそれでやっぱり問題が出てくるんですよね。擁護し肯定しようとすると、そこにばかり焦点があたってしまい、過去を否定することそのものを否やとしてしまいがちになる。勿論、それは逆も同様。どうしても、どちらか一方の見方寄りになってしまう。
つまるところ、過去を冷静に客観的に総括するには、どちら側にも偏る必要のない「余裕」が必要なんですよ。なるほどなあ、と思ったのはその点で、この英雄たちがもたらし現状維持している平和な世界、というのはその「余裕」がある世界なんですよ。悪しきを悪と断じる一方で、その中にかいま見えた良き部分を無視せず、消し去らず、事実として許容できる「余裕」を、英雄たちはもたらしている。
尤も、彼らがその「余裕」の存在を自覚したのは、もしかしたら前回1巻の事件があってこそ、ウルズナとシアリーの存在を抹消せずに受け入れたからこそ、生じたものなのかもしれませんが。
先の破戒王復活の危機は、余裕どころか平和そのものを損ない兼ねない危機だったのですが、あれをウルズナ、シアリーとまとめて消し去って無かった事にするような、全否定するような極端な選択を選ばなかった点にこそ、英雄たちの英邁さを感じるわけです。まあ、彼らがどこまで自覚的だったかは定かじゃありませんけれど。
一番過去を過去としてそのまま消し去ろうとしてたのが、当人のウルズナだったのですけれど、それを思い止まったものの、かつて自分が目指した世界が自分たちを倒した連中に寄って成し遂げられているのを目の前にして、ぶっちゃけ明確な目的を失ったままシアリーの為に動いていたというのが今の彼だったわけですが、今回の一件を通じて、自分とは違う視点からかつての破戒王の支配の功罪を目の当たりにし、また今の平和の堅牢さを実感することで、過去からの生き証人として自分が何をするべきかの答えを手繰り寄せたのが、今回の話だったのかなあ、と思ったり。
こいつ、悪党のくせに真面目だよなあ。
こうしてみると、かなり渋い主題の作品なんですが、試行錯誤しつつちゃんと全体を組み上げてるのは大したもんだと思います。さらに、ウルズナとかいい所もあるけれど総合的に見るとやっぱり悪人、というキャラはかなり扱いにくいと思うのですけれど、結構うまく動かしてると思いますし、売れ線とは程遠い内容ではありますが、私は結構好きでしたねえ。
しかし、シアリーはあれだよなあ。典型的な悪い男に惹かれちゃうタイプの女性ですね、これ。おもいっきり踏み外しちゃってますし。まあ、境遇気にせず幸せ感じられるっぽいタイプなので……うん、ドツボだなw だが、それがイイ、とも言えるヒロインです。その意味では、カノンも似たようなタイプのヒロインっぽいなあ。口は攻撃的だけど、中身はチョロい悪い男に引っかかるタイプw 

1巻感想