CtG ─ゼロから育てる電脳少女─ (2) (角川スニーカー文庫)

【CtG ─ゼロから育てる電脳少女─ 2】 玩具堂/bun150 角川スニーカー文庫

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美遥との同居を始めて1週間。同じベッドで寝たりと毎日がドキドキなのに、今度は美遥が遊の学校に転校してきて!?幼馴染みの冬風も交えた三角関係で、クラス中が大騒ぎに。一方、ゲーセンデビューしたハルハは、不良っぽい女の子・神奈桜と仲良くなっていた。そんな時、魔法の世界ウィザーズ・グレイズで新たなハダリーズ事件が発生!!調査を依頼された遊だったが、そこで出会ったのはゲーム世界の“幽霊”となった神奈桜だった!?
ふへへへ……いかん、変な笑いが漏れてしまう。ぐふふふ、これよこれ、このガッツリとした手応え。行間にみっしり詰まった登場人物たちの感情、想いの密度の濃さ。複雑怪奇な人間関係、心理の錯綜。これだけ手応え、歯ごたえを感じさせてくれる、中身のボリュームたっぷりの作品は昨今やっぱり少ないので、こういうのの直撃をガツーンと食らうと、キタキタキターとテンション上がってしまいます。
いやなんですか、あの美遥の転校してきた直後の、教室における冬風との直接対決。学校の教室という場所を舞台にしたシーンとしては、思い浮かぶ限り三指に入る鮮烈な印象を残す名シーンですがな。
今回、この二巻は幼なじみの冬風が美遥に対抗して、これまで関わってこなかったCtGのゲームを初めて、そっちで密接に絡んでくるのかなあ、と思ってたんですよ。普通なら、そういう展開だったはず。ところが、一向に出てこない。冬風は現れない。冒頭に凄まじいインパクトを残す美遥との修羅場シーンを演出したあとは、ぷつりと音沙汰なくなってしまう。あれ? どうしたんだろう、と気にはしていても、本編は本編で人付き合いが決してうまくない美遥の、アップアップしながらも独特の立ち位置を確保していく転入生生活や、ハルハと仲良く(?)なった中学生神奈桜が絡む、新たなハダリーズ事件の緊迫した展開が続き、冬風の事にばかり意識を傾けては居られない充実ぶりを見せていて、今回は埋伏段階なのだろう、と頭の片隅の方に追いやっていたわけです。冬風の事を気にしなくても、というか気にならなくなるくらい、迫真の展開が続いていて盛り上がってたんですよね。だからこそ、だからこそ……。
この幼なじみ、すげえわ。
なんというか、ここまで一撃必殺の強キャラ幼馴染はなかなか見ない。本編通してみたら出番、登場シーン数としてはかなり少ないはずなのに、彼女が全部持ってった感すらある。なんという強烈極まる存在感!!
これは、単に読者であるこっちへの印象度という意味合いだけじゃないんですよね。ダイレクトに、主人公の遊への存在感であり、また冬風をライバル視している美遥の衝撃度でもあるのです。
美遥にとって、遊の存在というのは複雑怪奇で未だ定まらぬものです。ゲーム上では長らくパーティーを組み、結婚までしている仲間であり、人慣れない美遥にとっては数少ない身近な存在。しかし、現実世界では全く面識がなかったところに、突然ハルハというイレギュラーの存在によって同じ家で同居し、寝食を共にする事になった相手。家族という存在に、どうやら一筋縄でいかない懊悩を抱えている彼女が、初めて手に入れた「大切な家族」。多分、まだはっきりと彼のことを異性として好きだとかいう感情は持ちえていないはず。しかし、意識し気になる相手であり、ハルハを間に挟んだ家族であり仮の夫婦であり、ゲームの中ではなく現実でも信頼を寄せれる相手。今、一番身近な相手。今の美遥の目線は常に遊に向けられていて、手を伸ばせば触れられる位置で彼の内面も含めて、その形、在りようを捉えようと模索している。
ところが、その肝心の相手である遊は……生活を共にする、そして一緒にハルハを育てる自分を常に気にかけてくれてはいるものの、その心は自分の方には向けられていない。彼の心は、冬風の方に向けられている。一緒に生活し、夫婦同然の日々を過ごして、ハルハの為に一緒に現実でもゲームの中でも肩を寄せあって協力して、助けあって、頑張っているからこそ、美遥には遊にとって冬風の存在がどれほど大きいか伝わってくる。
美遥にとっての遊の存在が、いったい何者なのか定まっていないからこそ、その相手の心が自分ではない相手に奪われてしまっている、ということが彼女にとってどれほど焦燥させるのか。
面白い、本当に面白い。美遥という少女の冬風への対抗心、敵愾心、そして痛切な敗北感。今や家族同然でありながら、しかし実際には何者でもない自分と遊との関係のあやふやさの中に、自分なりの確かな足場を築きあげようとした時、自分と彼だけの領域だと思っていた場所ですら、全く彼女に敵わないのだと思い知らされた時のあのぶん殴られたかのような、美遥の衝撃が、敗北感が、悔しさが……たまらん、たまらんですよ!
もう一方の冬風の方も、決して多くない登場シーンの中に、これでもかと遊という幼馴染に対する深く激しい、しかし決して真っ直ぐではなくうねって曲がってドリルのように螺旋していて、グリグリえぐってくる想いが込められ、語られていて、もう歯ごたえぱねえってえの。
そして、そんな冬風に対応して、往還して、遊もまた冬風という幼馴染の存在が自分の中に焼き付いている様を、こいつはまた無自覚に垂れ流していてさあ……もうこの三角関係、たまらん、美味しすぎる。
ぶっちゃけ、この段階だとあまりにも遊と冬風という二人の関係に割って入る隙間が見当たらないんで、はるかに美遥がどうしようもないところにいる気がするんですけどね。あのラストシーン見せられるとなあ。冬風は、遊と母親の関係をずっと間近で見続けた上で、彼のトラウマから心の傷から全部承知しているわけですしねえ。
しかし、これが単純な三角関係なら、それこそ美遥に太刀打ちのしようはないのですけれど、ここにハルハという遊と美遥を親として慕う少女の存在があり、仮とはいえ家族として三人が成立している事実があり、亡き母親が作ったゲームが政府を巻き込み、ゲームの範疇を逸脱した新人類の創造という段階にまで踏み込んだ危険な領域にまで足を突っ込んでいて、一筋縄ではいかない状況にあるんですよね。美遥の内面や人格に深く関わるであろう彼女の家庭環境についてもまだ詳しく語られていませんし。
うん、何もかもまだ始まったばかりじゃないですか。ハルハと新キャラの桜の話も、若い親たちに負けず劣らず鮮烈で、ゲーム内での展開も前回よりもどんどんおもしろくなってきていて、ヤバいです、初っ端から終わりまで、終わってもなお次の展開に想いが馳せて、ワクワクが止まらない。

これは、久々に面白さに悶絶しながら楽しめる傑作の予感!!

1巻感想