運命に愛されてごめんなさい。 (電撃文庫)

【運命に愛されてごめんなさい。】 うわみくるま/智弘カイ 電撃文庫

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運命はこの僕を選んだのさ! 運命に愛された僕とドライな美少女転校生で贈る、波乱の学園盛衰物語!!

我が校には運命力学に従って、毎週月曜日に転校生がやってくる。そして彼らは転校初日に全校生徒の前で予言を口にする。どうして? それが運命だからさ! そんなことより重要なのは、その週にやってきた転校生・シイナの予言だ。なんと僕・皐月純が今月中に生徒会長になるらしい! ひゃっほぅ!! これで学校中のかわいい女の子は僕のものだぜ!!
ところが、そうはさせじと現生徒会長・五十嵐優美センパイが予言の阻止に動き出す。でも、いくら運命に抗おうとしたってだめだよ。僕のシイナの予言によって、バラ色の未来は約束されてるんだから! はっはっは、運命に愛されてごめんなさ「純くんうるさいし気持ち悪いし臭いので口を閉じててもらえますか?」……こらシイナ、僕が喋ってるのに割り込まないでよ!
地に足がついていない勢い任せの作品、などと言ってしまうと随分と印象悪くなってしまうけれど、こう言い換えればどうだろう。
一切地に足をつけようとせず、一瞬足りとも留まらず、その勢いだけで最後まで浮つき切った!
何事も、徹しきれば一廉なのでありましょう。
ペース配分考えずに、スタートから全力で突っ走るなんて、そりゃあ馬鹿の所業でありましょう。起承転結なんのその、序破急いったいなによそれ。ひたすらに転転転転、起承も結もあったもんじゃない。説明無用の、ひたすら運命任せ。運命力とか、そんな設定、いつから出てきたよ。もはやその場の勢いとしか思えない設定の付与に、組織の投入。しっちゃかめっちゃかな内容をさらに爆発させ飛び散らせぶちまけるのは、調子に乗ること天下無双の主人公・皐月純。この男、信念もなく思想もなくプライドと見栄は高けれど誇りもなく矜持もなく、根拠の無い行動力だけは有り余っているという、もはやいっそ痛快と言っていいくらいのクズである。しかし、その潔いまでの隠すつもりのないさらけ出した欲望や煩悩はいっそ純粋であり、悪意はどこにも感じられない。嫉妬などといった負の感情は、おすそ分けしてまわった方がいいほど抱え込んでいるものの、不思議とそこに陰はなく、汚れきった人品はなぜか陽の明るさを輝かせている。奇妙奇天烈なクズなのだ。
愛嬌がある、のだろう。この馬鹿を嫌うほどは山ほどいるだろうが、恐らく憎むものはいないのじゃなかろうか。
これも、一つの魅力である。
だから、最初から最後まで彼のことを悪し様に罵り、毒舌を履き続けながら結局彼から離れずに側に寄り添いつづけたシイナの気持ちは、何となく理解できるのだ。この清々しいクズは、馬鹿でアホでろくでなしのゲス野郎だけれど、きっと一緒にいるとバカバカしくて楽しいのだ。褒める所が一つもないくせに、不快を感じさせることだけはない。浅はかで薄っぺらな人間性だけれど、そこには本音しか無く虚偽がない。
きっと彼女にはダメ人間属性の類も少なからずあるのだろうけれど、信念も思想も理想も理念も何もない空虚で自然なシイナという少女にとっては、あの愛すべきクズは刺激そのものだったのか。
好き、という形には様々なものがある。この勢い任せの物語の着地点が、本心と本音しか無い主人公の暴走のゴール地点が、何を考えているかさっぱりわからない毒舌少女が垣間見せた心の素顔というのは、なかなかにきれいな帰結だったんじゃないだろうか。
全くもってフワフワとして立て板に水のような流れのお話でしたけれど、その流れに乗ってしまったのでしょう、なんじゃこりゃ、と呆れているのもつかの間、存外楽しく面白かったのだと、読み終えた後微量の苦笑を交えながら相好が緩んでいた事実を前にしては認めざるを得ません。
これを延々続けられるのかはわかりませんけれど、一歩目としては十分刻んでみせたんじゃないでしょうか。
お見事。