はたらく魔王さま! (12) (電撃文庫)

【はたらく魔王さま! 12】 和ヶ原聡司/029 電撃文庫

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銀髪となった漆原の病室に集まった一同。皆の前で恵美の母親であるライラがこれまでのことを告白すると、勇者として、娘として、恵美の怒りが大爆発!過去の真相を知った恵美は、ライラとの大喧嘩の末に病室を飛び出してしまう。追いかける千穂と鈴乃だったが、二人は恵美を見失ってしまい…。一方マグロナルド幡ヶ谷駅前店では、新サービスのマッグデリバリーがスタート。レッド・デュラハン一号(店のバイク)で街を駆け巡る魔王も、母親と大喧嘩した恵美のことを気に掛けていた。庶民派ファンタジー、混沌の第12弾!勇者と天使の壮大な母娘喧嘩に挟まれて、魔王さま大ピンチ!?
これ、これを単なる親子喧嘩に矮小化してしまってはいけないよなあ。恵美サイドからすると、これは喧嘩なんて上等なものにすらなってないじゃないですか。ライラの事を、親と認める以前の問題になってる。これ、すっごいデリケートな話なんですよね。恵美の心の機微にえぐり込む話であって、それを恐ろしいほど繊細に取り扱っている。面白いことに、恵美の内面について直接描写することはせずに、徹底的に誰か他人の目から見た恵美の様子、として描いている為に、恵美の心の中で渦巻いている気持ちがいったいどんなものなのかは、はっきりとわからないように描いてるんですよね。実のところ、恵美もまた具体的に言葉にする形でそれを形象化できていないのかもしれない。
この、心の内面、心の動き、感情の内実というものを直接的には書かずに間接的に伺わせる形で見せていく、というのは本作一貫して行ってきた描写方法なのだけれど、ちょいとここに来て極まった感がある。
彼女の抱いている怒りというのは、多分読者も含めてかなり理解が届かない領域なんですよね。それは他の登場人物たちも同様なのだけれど、その「分からない」という事に対する対応が個々によって全然違うわけですよ。ライラやガブリエルたちと、ベルや千穂たちとでは理解できないことに対する理解の仕方が違うんですよねえ。単に親しさ親しさの違いではなく、千穂たちとエメラダでも対応が違うあたりはちょっと感嘆してしまいました。人間関係とその距離感の複雑な在りようをとことん突き詰めているからこその、各人の反応の違い、とも言えるわけです。
その上で、度肝を抜かれるのが真奥のそれなんですよね。
恵美にとっては、自分自身ですらうまく形に出来ないまま暴れて手の付けられず、一番やわらかいところまでむき出しになってしまったソレを、かの魔王さまはすっぽりと手のひらで包み込んでしまわれたわけですよ。
恵美の今回の崩れっぷりはかつてないものでした。
父親が母の味方について自分の全面的な味方ではない、というのを行動で示してしまったせいか、拠り所を失ってしまい、必死に一人で自立しようと自分を叱咤する風にすら見えて……逆にその姿を目の当たりにして、エミリアがまだ18歳になったばかりの「子供」だというのを、今更のように認識させられた感すらあります。これまで、テレアポとして働きながら一人暮らし、というOL生活をしていた恵美って、ちゃんとした大人、自立した社会人、というイメージが最初に植えつけられていて、そこにさらにアラス・ラムスという子供まで出来て母親としての振る舞いまで求められるようになることで、重ねて大人の女性という印象を強く焼き付かせてたんですよね。たまに弱い側面を見せても、それは女性としての弱さであって、幼さからくる弱さとは思わなかったのです。
ところが、今回彼女が見せた脆さというのは、そんなイメージを根底から打ち崩すもので、「ああ、そういえば恵美って、本当ならまだ高校も卒業していない年齢なんだよな」と、テレアポ時代の同僚の家で大学進学について真剣に聞く彼女の姿に、思わず呻いてしまったのでした。
まあねえ、これだけメタメタに参ってて、心が疲弊し切って立ち上がれなくなりかけているところに、あんな台詞聞いちゃったらねえ……。
これで何も思わないほうが、感じ入らない方がむしろおかしいですよ、というくらいに説得力のある陥落の仕方でした。いや、ヤバいわ、これはもう好みドストライクの展開ですわ。こんだけ文句なしに、筋道立てて、勇者エミリアが魔王サタンに惚れてしまう展開をやってくれるとは。なあなあで済まさず、とことんやってのけてくれましたよ。真奥は真奥で、自覚なさそうだけれど、ガブリエルとの会話見てると、千穂ちゃんと恵美のこと同列に扱ってるんですよね。千穂ちゃんと恵美に怖い思いをさせた奴は排除するって、そこで二人の名前並べるか、と思わず二度見したくらい。
正直、恵美の方は一時の気の迷い、とは言わないけれど、ファザコンこじらせた延長線上、みたいな節も若干見受けられるし、そうそうトントン拍子に行くとは思わないんだけれど、でもラストの魔王城での一幕にはニヤニヤが止まらんどころか、顔面崩壊しそうになりましたがな。
千穂ちゃんからすると、まさか恵美が同じ舞台の上に乗っかってくるとは思いもよらんかったんだろうなあ。そりゃ、思わんよなあ、勇者と魔王のあの関係見てたら。たとえ、信頼が芽生え仲間になったとしても、男女の機微云々にまつわる展開になるとは、まあ思わんでしょう。
さり気なく、鈴乃は鈴乃でこっそり凄いことしてたりするんですけど、あれは本気か、ハートマークw

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