IEイマジナリーエフェクト2 覚醒の夜 (講談社ラノベ文庫)

【IE イマジナリーエフェクト 2.覚醒の夜】 南篠豊/羽鳥ぴよこ 講談社ラノベ文庫

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空白症候群によりスフィアを持ってしまった、10代の少年少女たちのみが集められた枝誓館学園へと入学した無燈霞。クラスメイトの籃咲千華や七曇八生、さらにはルームメイトの轟胆力也らと協力し虚の夜宵の攻略を目指すことになる。最初の関門である十の門番に苦戦するも、千華の固有能力と霞の機転により虚獣を倒し、第一階層の鍵―アイの門晶を手に入れる。気をよくし、全員分の鍵を手に入れるべく再度戦いを挑むが、そこにライフルで武装した二人組が乱入して―!?空白を抱えた少年たちが明日を目指し戦う、学園バトルファンタジー、霞の能力が解き放たれる第2巻!
いいねいいね、私、こういう一見して普通に見えるけれど、中身はぶっ壊れている人格異常者タイプの主人公って大好き。大好物。
しかも、その手のキャラクターって往々にして設置型の地雷みたいなタイプが多くて、だいたい受け身なパターンが多いんですけれど、この主人公の霞ときたら自分の異常性に自覚があるにも関わらず、それを歯牙にも掛けておらず、尋常でないほどアグレッシブに暗躍しまくるという恐ろしさ。
凄いよね、本来なら躊躇すべき危険地帯、触れてはならない禁忌の領域を平然とした顔で横断歩道のように渡っていきやがる。その秘密を知ることは、すなわちいつ抹殺されてもおかしくない、その領域に踏み込めばある日突然失踪し、そもそもそこに居なかったことにされるかもしれない。それがどれほど危ういことなのかを理解しながら、そんな真実、世界の秘密、悪意の領分に触れようとするのなら、相応の覚悟、というものが普通はあるものだし、恐れに類する感情が押し殺そうともうちに秘めようとも存在自体はしているはず。
なのに、この霞という少年にはそれが一切ない。躊躇も、怖れも、覚悟すら必要としていない。本当に簡単に軽々と、これほどまでの秘密や情報を道具として利用するのだ。それを目の当たりにした相手が、例外なく顔を青ざめさせて恐れ慄きながら、絶句するのも無理は無い。自動車が行き交う道路で、赤信号の横断歩道をニコニコ笑いながらコチラに向けて渡ってくる人間を見たらどう思うか。地雷原の只中を無造作に歩いてくる人間を見たらどう思うか。雑に扱うと爆発する爆弾でお手玉している人間を見たらどう思うか。車に轢かれない自信はあるのだろう、地雷を踏まない確信はあるのだろう、爆弾を爆発させない手応えがあるのだろう。それでも、成せる、危機を回避できる自信や確信や理解や感触があったとしても、その危険性について全く頓着していないかのような態度を取られたら、感じるのは理解できない未知への、異常性への恐怖だ。
ゾロリ、と彼はその人皮の下に秘めていた異常性をむき出しにしはじめた。
霞はその主体性の希薄さ、自己の薄さを1巻当初からじわじわと滲ませていたんだけれど、その自意識の薄さが故にここまっで危ないやつ、という風には見えなかったんですよね、そのときは。その主体性を、千華への依存によって埋めていく分には、千華は苦労するかもしれないけれど、彼女を尊重している間は大丈夫かな、と思ってたんですよ。
完全に予想外だったのは、彼の優秀さが並外れすぎていて、起こってしまった状況を見事に片付けていく「対処型」ではなく、万難を排してお膳立てを先にしてしまうタイプだった、という事なのでしょう。方向性を得て目標を見定めた彼の行動たるや、まさしくブレーキのついていない点火されたロケットの如き、である。
おっそろしいことに、この男、千華が目指す目標を叶えるために、彼女が気づかないうちにその目標に至るまでの道筋を、切り拓き均して舗装しきってしまうつもりのようなのだ。準備を整える、どころの話ではない。千華が気がついた時には、案内標識付きの信号もついていない専用道路が出来ていかねない。そして、それを為すためならば、一切手段は問わないと来た。暗躍、暗躍、暗躍である。やることなすこと、真っ黒である。腹黒軍師も真っ青である。オーベルシュタインばりの悪辣さである。そして何より、その行動規範に人間味が見当たらない。悪意があれば、まだマシだった。悪魔と罵れるほどの邪さがあればまだ良かった。そこに欲望や妄執があるのなら、それを人間性と言い募れたのだろう。
彼が化け物と言われるのは、強いからではない。謀に長けているからでもない。その精神の異常さを完全に制御して操りながら、しかしその異常さ故に正気を逸脱して完全に暴走しているからこそ、こいつは、人の皮を被った本当の意味での化け物なのだ。
こういう、どう見ても主人公じゃなくて敵役だろう、というキャラクター設定は本当に大好物で、それがここまで野放図に誰にも手綱をひかれず、首輪をつけられず、自由に思う存分壊れたまま突っ走っているさまを見てると、楽しくて仕方がなくなるのです。どうみても、破滅という奈落への直滑降を、嬉々として滑落していく姿は、もう背筋がゾクゾクしてしまいます。いったい、ここまで破綻させてどうやって、リカバリーさせるつもりなんでしょう。千華に、「これ」が止められるのか? 生半可な止め方では納得出来ないイカレ様ですよ、これ。いやあ、ワクワクしちゃうなあ……参った参った。

1巻感想