英雄教室 (ダッシュエックス文庫)

【英雄教室】 新木伸/森沢晴行 ダッシュエックス文庫

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おっす。俺。勇者。魔王を倒した俺は、同時に勇者の力もすべて失ってしまった。
代わりに生まれてからずっと欲しかった「戦いとも冒険とも無縁な安息の日々」を得られたはずだった。
だが国王のやつが、なんと「勇者学校」なんてものを作っちまいやがった。 魔王もいないっつーのに、勇者作ってどーすんだよ。
俺はそんな学校で普通に過ごしたいのに、俺の常識はどうやら普通レベルから大きくかけ離れているようなのだ。

知らんかった。木の棒で神鉄切っちゃ、あかんかったのね。
知らんかった。素手でベビードラゴンをボコることが、そんなエラいことだったとは。だってあれ赤ん坊だよ? 成体でも古種でもないんだぜ?
知らんかった。魔法結界って破っちゃいかんかったのね。てゆうか。あれ魔法結界だったのね。張ってあったことさえ気づいてなかった。
堪忍してくれ。堪忍してくれ。俺は「普通」を知らなかっただけなんだ。俺は普通に生きたいんだ。

魔王と相打ちになって勇者の力を全て失った元・勇者の少年ブレイド。念願叶って普通の学生になれるはずが、入学させられた学園は、なんと勇者を養成するエリート学園だった!?そこに通う生徒たちはもちろん優秀。だが“本物”の勇者だったブレイドは心技体全てが英雄すぎる!?実技の授業で校舎は半壊!国王とは旧知の仲でタメ口上等!!学園の“女帝”である怖いお姉さんに睨まれても気づきやしない!!!ドラゴンの脱走でパニックとなっている学園でも、一人だけマイペースにカツカレーを食っている!?やることなすこと「超生物」な主人公の、無理・無茶・無謀・不自然極まりない「平静学園俺ライフ」!?いまここに開幕!!
なんだこの主人公、精神レベルが幼稚園児並だぞ!? その幼さは、小学生ほどの自意識も持ってないんじゃないだろうか、と思うほど。
でも、子供が一番かわいいのって、このくらいの年の頃なんですよね。純真無垢で悪意を知らず邪さを持たず、自分を偽らない。勇者として結構つらい思いも苦しい経験もしてきているはずなのに、これだけスレておらず、純真なまま、しかし自分本位ではなく他人を思いやれる子のままで居るというのは、それだけ周りの人間たちが良い人たちだったのでしょう。彼の述懐から語られる勇者の周りに居た人たちというのは、押し並べてどいつもこいつも人外魔境の様相を呈していたようだけれど、ブレイドの為人を見ればその人品がどういうものだったかというのもわかるというもの。まあ、もう少し一般常識とか振る舞いの仕方を教えてやれよ、と思わないでもないけれど、きっとその人達もその手のたぐいの知識経験は持ってなかったんだろうなあ。なにしろ、その一人である国王陛下からして、相当アレな人だったし。
しかし、勇者の力を失ったとはいえ幼い頃から人外魔境の中で育ったブレイドは、精神年齢はともかくとしてその身体能力たるや、そういう人たちと同列同等なわけで、とても普通じゃ居られない。だから、やることなす事しっちゃかめっちゃかなのだけれど……子供のそうした振る舞いを、叱るのは当然として怒ることは出来ないよね。彼自身が、心から反省しているのなら尚更に。彼がむちゃくちゃしてしまうのは、純粋に無知からくるものであり、また純真さ故に偏見や因習に囚われないという事なのだから。
幼い子供が、無邪気になついてきたら、キラキラとした満面の笑みを浮かべながら近寄ってくるのを、果たしてどれだけの人が邪険にあしらえるか。少なくとも、この学校の生徒達は身分や体裁や能力の差に拘って自分を鎧う外面を、そうまでして頑なに抱え込むほど哀しい人たちではなかったわけだ。色んな物に雁字搦めになってガチガチに針山をかぶっていたアーネストのような少女ですら、縛り付けられていたワイヤーをぶち切られるほどに、ブレイドの純真すぎる好意は強力で……そして、その強力すぎる好意を受け入れることが出来るほどに、彼女や他の子たちみんなが、凄く優しい子たちだったんですよね。
一人ぽつんと女の子が食事をとる大きなテーブルに、段々と一緒に座る人が増え、いつしか賑やかにワイワイと笑顔が弾けていく過程が、なんとも嬉しくてねえ。ブレイドの純真さが否定されるのではなく、皆をどんどん優しくしていくのが、嬉しくてねえ。
特にあのシーン。誰に促されたのでもなく、学園のエリートである上級クラスの面々が、つまらんプライドなんか放り捨てて、という以前にプライドのあるなしなんか一顧だにせずに、自然に、しかし真摯に、世界の危機でも国の存亡でも人の生命が掛かっているわけでもない、しかし大事なトモダチのために、当たり前のようにあんなことをしてみせたシーン。こういうのね、やっぱりいいなと思うのですよ。やっぱり好きなのですよ。
こういう、優しい気持ちにさせてくれるお話は、大好きなのですよ。
トモダチ百人出来るかな? というのをこれ以上無く描いて見せてくれた素敵な物語でした。