魔術楽譜(グリモワール)の盾 (MF文庫J)

【魔術楽譜(グリモワール)の盾】 花間燈/生煮え MF文庫J

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―――わたしの“書架"に、なってくれますか?―――朋瀬春樹は桜の回廊で一人の少女と出会い、その日から彼の日常が色を変える。「わたしは栞。正式な題名は《摂理の盾》――神秘の否定を司る“魔術楽譜"です」その少女は決して観測されてはいけない存在。盾と名付けられた破戒の書物だった。魔力を有し魔術を奏でることができる魔術楽譜。これは、その本を閉じるための優しくも数奇な奏鳴曲。
この人の描く、綿毛みたいなフワフワとしてじんわりと温かくなる雰囲気は、本当に凄い好き。なんでも、もっとバトルな要素をと求められてこの作品に至ったみたいなんだけれど、花間さんの作品の特徴というのは人と人との関係の甘やか空気感なので、この独特の雰囲気は変わらないというか失われないというか。逆に言うと、バトルに費やしている分量をもっと人間関係の機微の方に費やしたほうが、この柔らかな空気感の密度はもっとアップするはずなんですけどねえ。とはいえ、戦いという要素によって切羽詰まった心が、ピンチを救われることでより劇的に相手に惹かれていく、というシチュエーションはやっぱりお約束なだけあって強力なので、甘酸っぱさを生み出す媒介と考えれば、これはこれで悪くないのかもしれない。
前作と同じく、一心同体のパートナーと恋愛対象となる女の子とは違っているのは面白い。栞と春樹って、栞の幼さもあるのだけれどやっぱり歳の離れた兄妹みたいな感じなんですよね。いつも手を繋いで一緒にいるような、べったりの妹をお兄ちゃんが過保護なくらい庇護しているというか。一方で、魔女の御篝綾に対しては歳相応の男の子として、美人の少女への素直な憧れとドキドキと親近感を抱いていて、結構意識してるんですよね。
前作でもそうだったんだけれど、この作者の描く主人公の、ヒロインを意識するドキドキ感は読んでいても微笑ましくて、甘酸っぱくて凄い好きなんですよね。相手をちゃんと、女性として強く意識している、とでも言うのでしょうか。それでいてがっついているわけではなく、フワフワとした柔らかい雰囲気が周りを覆っているので、自然と甘やかな空気感が醸成され、しかし清潔なだけではないしっとりとした艶っぽさも同時に醸しだされてるのですよね。
優しくも孤高で他者と線を引いている魔女・御篝綾の等身大の少女としての魅力と、魔女という不可思議な存在としての魅力が相反すること無くゆるりと混ざり合っていて、神秘性と身近な雰囲気を併せ持っている素晴らしいヒロイン性を持ってるんですよね、この娘。そんな少女が、いつの間にか自分の日常の中に当たり前のように住み始めた少年を、ふとした瞬間から男の子として意識し始める。
一連の事件が、深い深い優しくも切ない愛情を発端にして核心として動いて、そしてその愛を否定されること無く、哀しくも祝福された終わり方を迎えたことで、余計にその結末を見守ることになった春樹や綾、栞たちに対してもより大きく深く「愛情」という心のカタチを焼き付けることになってる気がするんですよね。事件の結末、関係者たちの残したものに思いを馳せて巡らすことを共有する。名残、残滓、さてそれが少年少女たちの心の動きにどれだけ影響を残すのか、与えるのか、刺激するのか。
いずれにしても、少年の……春樹のあの飾らなさは好感に値します。あれだけ率直に気持ちを語られたら、その相手である女性陣はたまったもんじゃないだろうなあ。ズキューン、ですよ。あれがどれだけ凄まじい口説き文句なのか、自覚ないあたりなんて天然ジゴロw

あと、今回のイラストは本当に作者の描く作品の雰囲気にぴったりで、素晴らしかった。

花間燈作品感想