レイセン File8:ポイント・オブ・ノーリターン (角川スニーカー文庫)

【レイセン File8:ポイント・オブ・ノーリターン】 林トモアキ/上田夢人 角川スニーカー文庫

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ついに引き起こされたT‐day。目の前で命が奮われていく状況に混乱するヒデオだったが、それでもノアレは戦えと囁き続ける。この異常な“場”を作り出したマックルを止めるため、ヒデオはメガフロントを進むものの戦禍は急速に拡大し続ける。T‐dayとは、そしてマックルが言えなかった本当の願いとは!?ヒキコモリ男の第二の人生、ここに完結!!
【レイセン】ついに完結……って、レイセンじゃないじゃん!! 第一巻冒頭のあれを思いっきりなかった事にしやがった! 別の言い方をスレば、歴史が改変された、とでも言えばいいのかもしれないが。いや、これ後書きを見る限り作者がぶん投げたというよりも、ヒデオが作者に対して一切譲らなかった、という方が正しそうなんですよね。だから、作者の構想をヒデオこそがねじ曲げた、まさに歴史を改変した、と言っていいんじゃなかろうか。さすがは魔眼王! 彼の最大の武器というのは、精霊たちに協力を求められる、その力を扱えるというものではなくて、その無力だろうと関係なくぶれない大胆な精神性にあり、そのキャラクターそのものが武器だったわけです。そしてその武器は、なんら力が及ばないはずの作者にまで通用し、あるべき未来をねじ曲げてしまった、と。さすがは二代目聖魔王!
やはり、ヒデオの強さというのはむしろ無力であるときのほうが真価を発揮するのではないでしょうか。レイセンシリーズは当初からノアレが守護につき、何くれとなく助けを与えていたせいか、ヒデオも微妙にひよっていたというか、その力に頼らない行使しないようにしながらも、心の何処かにいざと慣ればノアレが居る、という寄りかかった思いがこびりついていたような気がします。それは逃げ道であり弱さだったのか。切り札があり、全部ひっくり返せるジョーカーがある、というのは心の余裕につながるものですけれど、ヒデオの場合はこれ、もともと単なるヒッキーであり、どれほど頑張っても努力しても一般人なんですよね。彼が真価を発揮するのは後先考えない覚悟を決めた時。ノアレの存在は甘えとなり、ヒデオのその覚悟を殺し続けるものだったようにも思うのです。さて、あのノアレはそれを承知しつつずっと傍で嗤っていたような気もするのですが。
しかし、T‐dayという地獄の現出を前にして、ヒデオはそんなあやふやな態度ではどうしたって生き残れない状態になってしまいます。すべてが混沌へと誘われていく、カオスの坩堝。そんな中でやるべきことも見定められず、流されるまま地獄の光景に怖気づき生き残ることに汲々としてしまう彼の姿は、聖魔王としても魔眼王としても相応しくなく、ただの無力な一人の心弱き男でしかありませんでした。ノアレにとって、自分の庇護に寄りかかったまま何もなそうとしない人間には、興味を逸したのでしょう。ノアレの力で、力に溺れてこの地獄を蹂躙してみせるならばともかく、ノアレの影に隠れて震えているようでは……。
結局、この男は裸一貫で後先ない状況に追い込んでこそ、なのである。何も持たなければ、この男は自分を顧みられる。そうなってこそ、守ってくれるものがなくなってからの方が、後ろも見ずに逃げ出すことなく、地獄の中に飛び込んでいけるのである。逃げることが出来るのに、逃げることを止められるのである。
これでこそ、カワムラヒデオその人なのだ。

それにしても、今回の一幕は林トモアキ史上でも最悪の血みどろ展開だったんじゃないだろうか。容赦なく人がバタバタと死んでいく阿鼻叫喚の地獄。戦場にもならない虐殺し虐殺される展示場。ヘヴィーだった。
【お・り・が・み】の木島連隊のテロの時ですら、鈴蘭の奮闘で収拾されましたしね……鈴蘭は今回キツかっただろうなあ。以前は、彼女自身世界中を駆け回って防いでみせた地獄の光景が、今目の前で起こっているにも関わらず、一切手出し出来なかったんだから。彼女にとって、第三世界云々など関係無かったはず。関係なく、憤れるからこそ、彼女は初代聖魔王成り得たんですよね。そんな自由な心を持っていたからこそ、彼女は悪の組織の総帥となり、魔人機関の長となり、神殿教会の聖女となり、アウターの魔王となったはずだったのに。
今回の、何も出来ず、することを許してもらえなかった状況というのは、彼女にとっても思う所あったんだろうなあ。聖魔王を退いたからといって、いつまでも裏方やってるような人じゃないんだから。

そして、カワムラヒデオが悲劇のヒーローとして戦い続ける未来は彼自身の手によって拒絶され、規定された歴史は改変され、億万分の一の可能性へ、最悪の災厄への可能性へ。しかし、それはもしかしたら、億千万分の一の希望へとつながる道だったのかもしれない。
ここからは、精霊使い川村ヒデオの戦いではなく、二代目聖魔王・魔眼王たる川村ヒデオの戦いだ。

林トモアキ作品感想