いでおろーぐ! (電撃文庫)

【いでおろーぐ!】 椎田十三/憂姫はぐれ 電撃文庫

Amazon

全ての恋愛は幻想である!? リア充爆発アンチラブコメ!

「恋愛を放棄せよ! すべての恋愛感情は幻想である! 」
雪の降るクリスマスイブ、カップルだらけの渋谷。街の様子に僻易していた平凡な高校生・高砂は、雑踏に向かってそんなとんでもない演説をする少女に出会った。
「我々、反恋愛主義青年同盟部は、すべての恋愛感情を否定する! 」
彼女の正体は、同じクラスの目立たない少女、領家薫。演説に同調した高砂は「リア充爆発しろ! 」との想いを胸に、彼女が部長を務める"反恋愛主義青年同盟部"の活動に参加する。やがて集まった仲間とともに『バレンタイン粉砕闘争』への工作を着々と進めるのだが――!?
「我々は2月14日、バレンタイン・デーを、粉砕する! 」
そして今、ついにその日を迎える――!!
イデオローグという言葉を調べると、
1 あるイデオロギーの創始者・代表者。また、歴史的、階級的立場を代表する理論的指導者・唱導者。
2 抽象的な議論にふける空論家。
<デジタル大辞泉>
などという意味があるようだ。単純にイデオロギーの担い手、という意味とは別に、空虚な観念を吹聴して空論を弄ぶものに対する軽蔑的な意味合いが込められている様子が伺える。さて、本作はどうなのだろう。単に恋愛にまつわるイデオロギーの旗手を語る物語としてイデオローグを名乗ったのか、それとも恋愛至上主義に対する批判的な意味合いが込められているのか、或いはリア充爆発しろ、と恋愛感情やそれを基幹として構成される人間社会そのものに抗議し抵抗し暴れまわる反恋愛主義青年同盟に対して、冷笑的な意味合いを込めているのか。
いずれにしても、なかなかぶん投げた内容であったのは確かだ。何しろ、着地点としては順当な結末を、思いっきり断罪し否定し拒絶した上でスルーしてみせてしまったのだから。感心すると同時に呆れてしまった。この物語、どうやって終わらせるつもりなんだろう。あんな拒絶をしてしまった以上、高砂はいまさら前言を翻せないし、退路を絶たれてしまった薫は後に引けない。この主人公、相当に酷い男なんじゃないだろうか。
この作品における薫の、反恋愛主義への同調者は薫も含めて皆、恋愛感情や恋愛事象に裏切られて絶望したものばかりだ。しかし一方で、その心には恋愛の憧憬がずっと燻っている。恋愛というものを憎みながらも、無視できない。心の何処かで求め、焦がれている。そんな子たちばかりなのである。愛憎が渦巻いている。これほど拒絶しながら、彼らは心の何処かで恋愛を許し受け入れたがっているのだ。本当に、恋愛感情というものに絶望しているなら、その事象に関心が持てないのなら、そこに在るのは無関心だ。興味の一欠片も持てず、自分には関係ないものとして遠くに眺めるだけである。そう考えるなら、多分主人公の高砂こそが、一番恋愛というものに無関心で興味を持っていないのだろう。彼が悪趣味なのは、それを遠くに眺めていればいいものを、わざわざ間近の特等席に居座って、恋愛に踊らされる者たちを半ば当事者になりながら観戦しているところなのだろう。恋愛に興味がなくても、恋愛に踊り狂う薫や彼女が巻き起こす狂騒を面白がり、しかし本当の意味で寄せ付けず、彼女に安息を許さない。その方が面白いから。
そういう風に見たら、やっぱり酷い男だと思うじゃないか。
退路を絶たれ、許されることも許すことも出来なくされた領家薫は一体どこへ行けばいいのか、どこまで行ってしまわなければならないのか。その上で捨てきれない恋心。全力で恋愛を否定しながら、その内側で自分の恋心は庇い続ける。それは絶望のようで居て、どこか楽しげな偽りと真実の綱渡り。まったく酷い話ではあるが、だからこそ面白くもある、などと思ってしまう時点でこっちも十分最低である。
しかしだね……傍から見てるとどの覚悟から見てもこいつらリア充以外の何者でもないのよね。そういうのが、リア充爆発しろなどとのたまわっているのは、いわゆるひとつの「片腹痛い」!
古人曰く「隗より始めよ」である。他のリア充に爆発しろ、というからにはまず自分から爆発してみせろ、というお話でした……ん?