見習い神官レベル1 -だけど、この手を離さずに- (ファミ通文庫)

【見習い神官レベル1 -だけど、この手を離さずに-】 佐々原史緒/せんむ  ファミ通文庫

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多くの犠牲と謎を残し、砂の巨人となり滅びたペルスカ。その黒幕と思しきリベカを警戒し、ヨシュア達は太守ダルタスを護衛してルステラへ赴くことになる。だが現れたのは偽教師だった破戒神官。そして彼女を追って、雷凰の対・雷鳳の少年が襲来する!神々の禁忌を犯したリベカを捜しているという彼は、人と神魔の婚姻もまた禁忌だと告げてきて―。「リベカ様を助けて」と願う敵と明かされる神魔の秘密を前に、ヨシュアが選ぶ道は!?シリーズ堂々完結!!
幕間におけるリベカの回想を読んでると痛感してしまったのだけれど、リベカが抱えている家族への執着、殺された姉やその姉から託された弟であるヨシュアへの偏執的なまでのこだわりは、結局とうとう最後までヨシュアには理解されなくて、違う言語で喋っているような噛み合わなさのまま終わっちゃってるんですよね。いや本当に哀れ。
これはもう、それぞれの立っている時間が全く異なっちゃってるんですよ。リベカは過去にしがみついて過去という位相から喋っているのに対して、ヨシュアは現在に立ち未来の方ばっかり見ているから、リベカの声は聞こえてもそこに込められている過去という位相にしがみついた情念については観測できてないのよ。だから、リベカが何を考えているのかサッパリわからない。
でも、仕方ないのよ、これ。ヨシュアはさ、今新婚ホヤホヤなのよ。可愛い新妻とイチャイチャしながら、家族計画立ててるのよ。二人の未来に向けて一緒にあれこれ楽しい苦労をしながら積立ててってる最中なのよ。さらに、そんな新婚生活や将来にむけての展望を、支えてくれるトモダチも出来て、今は現在と未来に対して精一杯であり夢中であり、後ろ振り返っている暇なんてないのですよ。今が旬の新婚夫婦に、小姑が呼んでもいないのに首突っ込んできて、応援してくれるどころかいちゃもんばっかりつけてきた挙句に、昔はああだったこうだった、と茶々入れてこられても、耳に入るもんですか。
それでもヨシュアとしてもリベカは家族だし、姉弟だから気にかけますけれど、前提が違うことを理解してないから、お互い噛み合うもんじゃなし。そのまま、全く歩み寄ることなく、そもそもボタン掛け違っている事にすら気づかないまま、終わってしまったのはやっぱり憐れな話です。
しかし、ことヨシュアとスーリィンの結婚生活に視点を移すなら、お互いに愛し合いながらも人間と神魔という種族の差によるしがらみとわだかまりが多少なりとも意識の端にこびりついていたのを、神魔位階第一との直接対面によって一気に吹き払ってしまいましたからね。もう何の憂いもなくなったわけですから、素晴らしきハッピーエンドじゃないんですかね。
なんかなー、単に事実を客観的にみるならば上級神魔の黄昏って感じの世界の流れで暗い雰囲気になりそうなものだったんだけれど、スーリィンの解釈と大言壮語がもう突き抜けてて、素晴らしく楽観的で、なんだかその終わりはとても素敵な事なんじゃないかと思えてきてしまいました。ほんと、大した嫁さんですよ。確かに上級神魔の歴史は終わっちゃうかもしれないですけれど、それが一つに交わって先へ先へと新たな形で繋がっていく新たな世界の形が出来上がるのだとしたら、その成り立ちが幸せによって生まれるのなら、やっぱり偉大なるハッピーエンドなんじゃないでしょうか。
まあその偉大なるスタートが、留年によってはじまるというのは、やっぱり憐れなんですけれどw
当初は、一人だけ年かさという主人公のヨシュアが、幼い子供たちの保護者役、牽引役となる不思議な配役のお話だなあ、と思っていたのですけれど、いつしかちびっ子たちがヨシュアとスーリィンのかけがえの無い仲間となり、生涯の友となり、導き役となり、支えとなっていたのには、今更ながら人間関係って面白いなあと頷くばかりでした。あの子たちと、こういう関係になるなんて、ほんと最初は思いもしなかったもんなあ。
最後まで、色々と堪能させていただきました。面白かった。
諸般の事情から出版できなくなりそうだった短篇集が、どうやら電子書籍限定で出版されることになったそうで。ありがたい限りです。これ、こういうケース増えてくればいいんですけどねえ。

シリーズ感想