戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉 (HJ文庫)

【戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉】 SOW/ザザ HJ文庫

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人型強襲兵器を駆り「白銀の狼」と呼ばれた英雄ルート・ランガートの夢はパン屋を開くこと。戦争が終わり、無事パン屋を営むルートだったが、その怖い顔のせいか、さっぱり売れない。そこで窮余の策で募集したウェイトレスとしてやってきたのは、ルートの軍人時代の愛機「アーヴェイ」のAIから生まれたという白銀の髪と赤い瞳を持つ美少女だった。
これ、ジャケットデザインが大勝利仕様じゃないですか!? もう見た目一発でキュピーン!ですよ。パンの絵を全面に押し出しているのもさることながら、ルートとスヴェンの重なった立ち姿の構図が非常に面白い。それに、敢えて真ん中に立たせるのではなく、端っこに立たせてタイトルをバンと置いて目立たせてる構図が、むしろ二人のシルエットに目を引かせる要素になってるように思うんですよね。凄く印象に残る。久々に表紙絵見てグワングワン脳内揺さぶられる感覚を味わいました。
ジャケットでまず掴みはOK、さらにあらすじでヒロインの娘が軍用兵器の元AIということで、AI好きとしてはドストライク決定。作品読む前からこれだけガツンガツンこられる作品はなかなかないですわー。
とはいえ、AI少女スヴェンの性格、キャラクターは思ってたのとかなり違ってたんですけどね。思い込みとして、やっぱりAI系という出自のヒロインというとロジカル、冷静、健気、献身、秘めた情熱という論理的クール系美少女という思い込みがあったんですけれど、スヴェンはまさかの感情アッパー系。健気で献身的という基本は押さえているものの、凄く感情豊かで情熱的で思い込んだら一直線で、というある意味マシンタイプのヒロインとは裏腹の可憐なキャラクターでした……だが、これがまた素晴らしい!
人型強襲兵器のAIだった頃、別に女性人格じゃなかったというのがむしろいいんですよ。ルートの愛機のAIとして同じ戦場を潜り抜け、生死を共にし、相棒として戦い続けるうちに芽生える自我。AIでしかない自分をまるで人間の相棒のように扱う主に刺激され、徐々に育っていく情緒。そうして生まれてしまった人格は、やがて戦争が終わりルートが軍人を辞め、自分を置いて去っていくという別れを体験することによって、決定的なものへと至ってしまうのですが……彼女はある意味、ここで自分で自分を「彼女」として既定するのですよね。勿論、強襲兵器搭載型AIだったアーヴェイを、まったく別の存在へと「改変」した人はいるんですけれど、彼女が彼女になったのって、外部の意思ではなくあくまで彼女自身の意思であるわけです。人の姿となり、兵士としてのルートの相棒という枠を逸脱し、彼の生きることすべての相棒として彼を支えたい、ずっとついていきたいという願いが、ただのAIだったものを「彼女」へと進化させたのである。
私はこういう、本来ヒロインと成り得なかった、何者でもなかった在り得ない立ち位置から自力でヒロインの座をもぎ取る決然とした覚悟と意思と貪欲さバイタリティを持った娘って、大好きなんですよね、大好物なんですよ。その点において、彼女……スヴェルゲン・アーヴェイはまさにドストライク。素晴らしいの一言。
ルートは、彼女がかつての相棒だと知らなくて、それどころか機械人形であることも知らないのだけれど、姿形どころかAIだった頃の彼女とは情緒の豊かさや感情の激しさとか全然違うはずなのに、その言動から度々AIアーヴェイを重ね見てしまうんですね。不器用で人付き合いが決して上手くない彼が、苦手なはずの歳若い女の子相手にも関わらず、彼女といるとかつて愛機を駆っていた頃の安心感、信頼感を感じてしまう。この知らず、通じ合った関係がまたキュンキュンきてしまうんですよね、もうキュンキュンですよ。
作中の雰囲気は決して明るくなく、戦争が終わった後もなお引きずられる国同士の因縁、実際に戦争で傷つき喪った痛みによって負の感情がわだかまり続ける「戦後」という終わらない、いや一度終わったからこそ続いてしまっている「平和の影の部分」が、重苦しい雰囲気を醸し出しているのだけれど、スヴェンの情熱的なまでの一途さと、ルートの素朴な人柄、そして平和な世の中でパン屋を開きおいしいパンを作って多くの人に食べてもらいたい、という自身の心の傷を超えて思い至った夢への純粋な思いが、そして彼の夢の純粋さに感化された人たちの優しい気持ちが、この物語を重苦しいものだけではない、温かいハートフルな物語へと育て上げ、押し上げている。
恨みや憎しみを単に否定するのではなく、受け止めた上で次へと進めてくれる素敵で、いい話じゃあないですか。
問題は、ルートはもう完全に街のパン屋さんであるスヴェンはパン屋の看板娘なので、果たしてパン屋さんと看板娘という立場のままで、何やら不穏な動きのある国際情勢や暗躍する謎の超技術に関わる組織、とかとどう絡んでいくのかがえらい難しそうなんですよね。続きはもちろん、大いに望み求める所なんだけれど、一体どう話を広げていくんだろう。
ともあれ、スヴェンの可愛らしさ、十分堪能させていただきました。機械少女最高っ。

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