創世のエブリオット・シード 平和の守護者1 (ファミ通文庫)

【創世のエブリオット・シード 平和の守護者 1】 池崎数也/赤井てら ファミ通文庫

Amazon

超常の力をもたらす『ES』に適合し、能力を得た『ES能力者』。彼らの存在は少数ながら、世界のパワーバランスの一翼を担っていた――。
そんな超常者達が集まる訓練校に入校を果たした河原崎博孝は、自分の力で空を飛ぶ事に思いを馳せるのだが、彼一人だけが能力を発現できず、同期生からは劣等生のレッテルを貼られてしまう。さらに、小隊を組む事になったメンバーはある問題を抱えていて――!?
新たな次代を担う者たちの創世の物語、堂々開幕!!
やっぱり、この作品もネット小説だったか。いやね、入学してからこっち事件らしい事件も起こること無く、ゆっくりじっくりES訓練の教育課程が描かれてくんですけれど、これが本当に懇切丁寧なんですわ。ああ、これは元々ネット小説だった作品だなあ、というのがこの辺りでわかるんですよね。どうしても最初から商品として創りだされた作品というのは、早々に読む人に食いつかせる釣り餌となる派手な、そうでなくても特徴的な何らかのイベントをどうしても盛り込まないといけない、みたいなんですよね。そうでなくても、一巻でひと通りの起承転結はつけないといけないし、見せ場となる盛り上げどころを設けないといけない。物語だって、最初なんだからバーンと打ち上げて動かさないといけない。
ところが、ネット小説だと何の制約もなく自分の好きに書いていいモノですから、そりゃもう好みによっては微に入り細に穿つまでとことん丁寧に描写し続ける人だっているわけだ。これ、下手を打つとダラダラ話も進まずどうしようもなくなるモノや、延々状況描写ばかり続いて物語として成立してないようなのも出てくるんだけれど、時として丁寧であり細かいところまで行き届いた描写であるからこそ、特に派手な展開でなく地味に石をコツコツ積み上げていくような話であっても、やたら面白くなる事があるんですなあ。これは、ネット小説だからこその特色なんでしょう。少なくとも、最初から売り物として書かれた作品に、この手の進行の遅さを垣間見ることの出来るモノはちょっと覚えがない。
本作なんか、もう延々と訓練ばかりで一度実地訓練で初陣は経験するものの、曰くのある敵と交戦するわけでも強大な世界を揺るがすようなバケモノと戦うわけでもなく、単にその辺のやや手強めのザコ敵と偶々ぶち上がるだけ、というくらいで、全くと言っていいくらい派手な展開はない。皆無。訓練の内容も、地道の一言。いやでもこれが、なかなか訓練過程としては実直なもので、訓練教官もいかついオッサンなんだけれど、変に若い姉ちゃんじゃない分、言動や考え方に威厳や重みがあって、頼りがいのある尊敬できる先生って感じなんですよね。その教育方針も、よくよく考えられていて、訓練生への声のかけ方、扱い方一つに至るまで考慮を重ねられたもので、地味ながらこれを読んでいるのが意外なほど面白かったのです。
メインとなる博孝と恭介のコンビが二人共お調子者のムードメーカーで、終始明るく作品の雰囲気を盛り上げてくれていたのも、読みやすかった要因なのでしょう。同時に、二人共お調子者でお馬鹿でありながら、しかし考えなしのバカではなくて、むしろ思慮深く賢明な人物で決して人間関係にしても訓練過程に関しても、停滞させたり無意味に場を混乱させたりしないんですよね。だから、彼らの明るさに引っ張られ、彼らの賢明さにスムーズに背を押され、地味ながらも飽きもせず物語の丁寧な描かれ方を楽しむことが出来たわけです。
特に博孝は、能力が発現しないにも関わらず、めげることなく頑張り続ける努力家でひたむきな面もあり、頼もしいリーダーとしての資質も開花させていくのですけれど、やっぱり徹底してお調子者のスチャラカなノリを崩さないので、主人公として実に好感持てる奴なんですよね。この子は、好きだわあ。
本格的に物語が動き出すのは、恐らく次巻以降となるのでしょうけれど、これだけ地道に基礎となり土台となる部分を建築されると、そりゃあやっぱり先々どれだけ面白くなるかは、自然と期待してしまいます。まあ問題は、やはりスロースターターという事になるんでしょうね。