リーングラードの学び舎より 1 (オーバーラップ文庫)

【リーングラードの学び舎より 1】 いえこけい/天之有 オーバーラップ文庫

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「お前、教師になれ」
内乱から立ち直りつつあるリスリア王国で、ある1つのプロジェクトが始まった。
「義務教育推進計画」と名付けられたこの計画は、貴族も平民も同じ学び舎で教育を行うという、それまでの常識を覆すものだった。
かつて内乱に王国屈指の術式師として参戦していたヨシュアン・グラムは、王の勅命によって学園の教師に任命されてしまう。
しかも担当するクラスには貴族の娘から不思議系エルフ娘まで、個性的な5人の生徒が集まっていて――
WEB小説大賞「大賞」受賞の異世界ファンタジー教師物語、授業スタート!
あれ? けっこうこの本の書き方、主人公の丁寧語一人称って読みにくいって人多いのか。自分の場合、全然気にならなくて一般的に見て独特な書き方らしい、という事にすら気がついてもいなかったので、意外の念に打たれた。こういうケースは流石に珍しいけれど、人の感想というのは自分にはない視点というものを垣間見ることがあるので面白い。
なんて前振りをわざわざ意図して置いたわけじゃないんだけれど、この作品の基点となるのも自分の見ている世界以外の世界との接触、なのだろう。なにしろ、「義務教育推進計画」というプロジェクトからして手探り段階。まずは試行してみて不具合不都合なものを洗い出していく、という完全に試験目的のプロジェクトなわけだ。だから、選抜された生徒たちも身分から種族境遇まで多種多様、それを教える教師たちも様々な分野、組織から呼び出され、一応教育要項のようなものは準備されているものの、実地の教育現場で起こる出来事から手探りでより良き方法を見出していくために、教師同士のディスカッションも欠かさず、確立していない教育現場は教える側と教わる側のあるべき姿も確定していない為に、先生と生徒、生徒同士でも幾度も衝突が起こることになる。
自分の世界と自分以外の人間の世界との接触、違う価値観との触れ合いというものは、穏便ではじまるものである方が少ない。自分の世界に及んでくる影響は侵食であり、それに対して恐怖や違和感を感じて身構え警戒してしまう傾向があるのは自然なことなのだろう。
教育とは、ある意味共通の価値観や認識を共有させ、染め上げるものだと言っていい。しかし、ここに出てくる子供たちは、まっさらな無垢な状態ではなく、既にそれぞれの身の上から確固とした価値観を確立していると言っていい子たちだ。そして、彼らは学ぶ意欲は高くとも、教育を受けるという概念をまだ持ちえていない。そりゃあ揉める、簡単にはいかないはずだ。起こるのは、戦いである。
しかし、この主人公であるヨシュアン先生という青年は、暴威である。過去の内乱で振るったその力、というよりも確固とした意思は、そのまま教育の現場でも暴威として振るわれることになる。暴威というのは乱暴な言い方かもしれないけれど、この人は本当にブレがないというか恐れ知らずというか、手探りで進めているはずの現場を躊躇いもせずズンズンと突き進んでいく感じなんですよね。慇懃無礼が我が物顔で驀進していく。
しかし、同時に誰かにものを教えるということは教わるという事でもある、という金言を彼は身を持って体験していくものでもあるんですね。教育とは価値観を共有するようになるものであって、押し付けるものではない。彼もまた、生徒たちに教え、同僚の教師たちとディスカッションすることで、彼の中に確固として成立していた価値観や認識を徐々に変化させていくのである。元々の彼の世界を、学校の同僚や生徒たちは知らないし、読者もやっぱりわからないんだけれど、元からの知り合いであり外からの来訪者である人たちの驚きを抱いた台詞が、彼の変化を顕著に語っているのだから、教育の現場は彼にも大きな影響を与えていたのだろう。
それは試行錯誤と混乱の現場であり、曲折の坩堝であり、新しいものが次々と生み出されていく最先端なのだ。これが面白く無いわけがないだろう。
学校モノ、それも教育ものとして非常にアグレッシブで大胆で丁寧な、面白い物語だったように思う。
どうも、真ヒロインの登場は次回以降になるようだけれど、白衣萌えとしてはシャルティア先生が既に好し。