シャルパンティエの雑貨屋さん  1 (アリアンローズ)

【シャルパンティエの雑貨屋さん 1】 大橋和代/ユウノ アリアンローズ

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先祖代々雑貨屋を営む家の娘、ジネット。しっかり者の看板娘として近所でも評判だが、嫁ぎ先が目下の悩みの種であった。そんなある日、兄がどこかもわからないシャルパンティエ領で出店ができる営業許可証を貰ってくる。ジネットは、自分のお店を持ちたいという夢を胸に旅立ちを決意する。その道中、彼女は騎士ユリウスと運命の出会いを果たす。その彼こそが、辺境の地シャルパンティエの領主だった。ランプにポーション、堅焼きパン!笑顔であなたを待ってます!異世界の雑貨屋さん、ただいま開店準備中!!第1回アリアンローズ新人賞「最優秀賞」受賞作品、登場!
ウェブ版読了済み。なんだけれど、もう一度読みたくなったので、電子書籍版の発売を機に購入。ソフトカバーだとかさばるし高いし、と手がでないんだけれど電子書籍版だと1000円切るので、わりと買えちゃうんですよねえ。
というわけで、改めて読んだのだけれどやはり面白い。冒険の旅、というのは決して剣や魔法で戦ったりダンジョンに潜ったりすることが必要なわけではないんだなあ。
営業許可証という、一枚の証書を頼りにしてどこにあるのかも知れない土地に、自分の店を持つのだと旅に出る少女ジネット。家を出る理由が、兄にお嫁さんが来て実家に居場所がなくなるから、というなかなか身につまされる内容だったりするんだけれど、これ家族が不仲なら追い出されるにしろ家を飛び出すにしろ、逆に後腐れないんですよね。でも、むしろ家族仲は良好で兄妹たちが一生懸命協力して頑張ってきた一家だけに、より一層ジネットの「家を出よう」という決意に、勇ましさというか切実でありながら胸を張って遠くを見ている格好良さがあるんだ。現実に地に足を着けたまま、しかし一つのきっかけを逃さずに夢を追う姿は、ちょっと見惚れてしまいます。
誰もどこにシャルパンティエなんて土地があるのか知らないまま、許可証とその記述を頼りにシャルパンティエがあると思われる辺境の地へと旅立つジネット。そこに何が待っているのかわからないまま、一つ一つ事実をたぐり寄せるように目的地を訪ね歩き、旅をするというのは十分に冒険な気がするんですよね。決して盗賊が襲ってきたり、未開の土地に分け入ったりするわけでもなく、安全な街道を辻馬車に乗って移動し、定期船に乗り、きちんと街では宿に泊まって、と危なげない旅路ではあるんですけれど、細やかな旅の描写がワクワク感を募らせるのであります。
そして、ようやくシャルパンティエの近くと目される街に辿り着き、そこで騎士ユリウスとの出会いによって明らかになった営業許可証の秘密と、誰も知らないシャルパンティエの正体。
旅の終わりと同時に始まる、まっさらな白紙の状態からはじまる街づくり。そう、自分のお店を持って商売を始める前に、まずそのお店をはじめるための街づくりからはじめなきゃ、てな話になるわけですよ。まだ何もない土地に新しい街を作る、そのために道路を切り拓くための工員を集め、街を構成する施設や店を担う住人を集め、それらを動かすために必要な書類を決済し、と商売人でありながらジネットはゼロからの街づくりの最初期から、創成期から、その根幹に関わっていくことになっていくわけです。この何もないところから、小さくも一つの街が徐々に出来上がっていくワクワク感。冒険の旅とはまたひと味違うワクワクがあるんですよねえ、これ。
この街づくりも決して派手なイベントがあるわけではなく、領主となる騎士ユリウスも元名うての冒険者ということで政治などに特別長けているわけじゃあないんだけれど、非常に世慣れていてサポートしてくれるギルドの爺ちゃんたちも有能であり、堅実かつ着々と街は出来上がっていくのであります。面白いことに、むしろこの順調さに、新しい街の誕生に関わってるんだなあ、という感動があるんですよねえ。
ジネットさん、ただの雑貨屋の看板娘というには辣腕すぎるくらいの才気と物おじしない胆力の持ち主で、自分の店を持つ前に何やら領主様の代理人として事務方の多くを引き受け、秘書官というか執務官というか代官というかもう宰相なんじゃね? と、いう活躍を見せてくれるのですけれど、あくまで本分は商売人。ついに念願叶って自分の店を持つこととなり、新たな街の稼働とともにジネットの雑貨店も新装開店オープン開始、というところで次回へと続く。

書き下ろしの短編は、騎士ユリウスが怪我で冒険者を引退して、騎士の地位と領地を購入することとなり、シャルパンティエの地を得ることになるお話なんだけれど、ユリウスの冒険者時代の話、特に仲間についてはウェブ版では触れられていなかったはずなので、なかなか新鮮なお話でした。なるほどなあ、止むに止まれぬ引退だったとはいえ、納得づくの解散でもあり、良い仲間であり友達であったんだなあ。ここまで、仲間に騎士になる手助けをしてもらっているとは思わなかったし。こりゃあ、今後の書下ろしで街に昔の仲間が遊びに来る話しなんかも期待できるかもしれない。