アルバート家の令嬢は没落をご所望です (角川ビーンズ文庫)

【アルバート家の令嬢は没落をご所望です】 さき/双葉はづき 角川ビーンズ文庫

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才色兼備な大貴族の令嬢メアリ・アルバート。彼女は始業式で前世の記憶を思い出す。この世界は前世でプレイしていた乙女ゲームと同じで、自分は主人公をいじめて最後に没落する悪役令嬢だったことを―となれば、ここは「そんな人生、冗談じゃない!」と没落を回避…しない!従者のアディ(口が悪い)を巻き込んで没落コースを突き進もうとするけれど、なぜか主人公になつかれて!?人気沸騰WEB小説、ビーンズ文庫に登場!!
ウェブ版読了済み。異世界転生モノが隆盛の昨今ですが、その中でひとつの潮流となっているのが乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまう、という悪役令嬢モノ。このジャンルにも幾つもの名作が散見されるのですが、その中でも特に畳み掛けるようなテンポのよいコメディとして人気を誇ったのがこの作品、メアリさん奮闘記である。
自分、乙女ゲームはさすがにやったことないのだけれど、ヒロインの逆ハーレムの邪魔をして散々意地悪した挙句にラストに吊し上げくらって破滅してしまう悪役令嬢って、定番なんですかね? この構図はどうもテンプレートになっているらしく、おおむねどの作品でも一貫しているのだけれど、その顛末はおおよそ二パターンあります。ひとつは、本来のゲームの主人公であるヒロインを逆に悪役にしてしまう展開。もうひとつは、本来対立する主人公と仲良くなってしまうパターン。
この作品が他とちょいズレているのは、メアリが悪役令嬢として断罪されるのを回避するのではなく、むしろ没落上等、と積極的に悪役令嬢としてイベントを消化しようとするところでしょうか。ところがメアリさまときたら少々間が抜けていらっしゃる上に根がお人好しなせいか、居丈高に主人公アリシアをイビろうとすると何故か逆にどんどん懐かれていくという顛末に。いやあ、これはアリシア嬢もアリシア嬢で相当すっトボケている娘さんなので、一概にメアリさまが間抜け、というわけではないのですが。
もう一つ珍しいのは、乙女ゲームの悪役令嬢であるというゲーム知識を保有している事実を、メアリさまは一人で抱え込むのではなく、従者のアディにあっさり開示しちゃっているところでしょうか。普通なら、コメディでもシリアスでも、悪役令嬢は孤軍奮闘することになるのですが、この物語ではアディという打てば響く相棒がいるので、ボケるメアリさまにツッコミのアディという漫才コンビが成立してしまい、常時愉快な掛け合いが繰り広げられながら物語は進行していくことになるわけです。
わりと毒舌でお嬢に対して遠慮なくツッコミ入れるアディは、あんまりきれいなイケメンという印象はなかったので、ジャケットデザインのキメポーズでキラキラしているアディは、かなり違和感というか「ど、どうしたん!? なんか変なもん食べた!?」と心配するか、或いは何かメアリさまに罰ゲーム食らったのかと思ってしまったのですが、一応彼も乙女ゲームの攻略キャラの一人であり、ゲーム内では罪を抱え憂いを秘めた影のあるイケメンだそうなので、いや間違っていないんだろうけど。いや、アディ自身が頭抱えて発狂しそうなキャラだなあ、それ。実際、それ聞いて当人若干白目剥いてたっぽいけれど。
ともあれ、本作の見所はやはりメアリとアディの軽快愉快な掛け合いとなるのでしょう。そこに、暴走わんこのアリシアと食わせ者のパトリックが加わった四人組、或いはダブルカップルが成立することでコメディとして完成するわけですが、終盤から第二部以降のメアリが好きすぎて全く外からダメージを喰らわない話を聞かないキラキラスター状態のアリシアに慣れ親しんだ身とすると、最序盤の入学当初の低い身分で上流階級の学校に入ってしまったメンタル弱々のアリシアというのは新鮮を通り越して誰これ状態で、いやはや人間化けるものであります。まあこれだけ孤立感際立ってた頃に、あれだけ親身になって世話焼いてくれたら、そりゃあ子犬か生まれたてのひよこみたいに、メアリに懐くわなあ。あれでめっちゃ虐めているつもりのメアリさまは可愛いです、ほんと。
そんな空回りしっぱなしのメアリさまが、ここ一番で今生振り絞ってキメてくれる場面こそが、アリシア絶体絶命のピンチの時、というのだから彼女が懐かれるだけでなく慕われ信頼されるというのもわかるというもの。基本三枚目なのに、ここぞというとき一番のイケメンなのはメアリなんですよねえ。アリシアにとって王子様はパトリックだったのでしょうが、ナイトはメアリさまだったのかもしれません。
地の文のセリフ回しとか、けっこう拙いものも見受けられたりするんですけれど、キャラクターの掛け合いがこれだけ楽しいと、あんまり気になるものではなし。むしろ、余計なゲーム進行や解説なく、登場人物の意思によって自由に物語が進行していく第二部の方が、この作品の真骨頂といえるので、なんか綺麗にこの巻で完結しているみたいな締めになっていますが、続編の方を是非希望したい。メアリとアディの本格的イチャイチャがはじまるのも、これ以降ですしねえ。乙女のメアリは、可愛いですよ? セカンドワンコも登場しますし、ぜひぜひ。