かくりよの宿飯 あやかしお宿に嫁入りします。 (富士見L文庫)

【かくりよの宿飯 あやかしお宿に嫁入りします。】 友麻碧/Laruha 富士見L文庫

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あやかしの棲まう“隠世”にある老舗宿「天神屋」。亡き祖父譲りの「あやかしを見る力」を持つ女子大生・葵は、得意の料理で野良あやかしを餌付けていた最中、突然「天神屋」の大旦那である鬼神に攫われてしまう。大旦那曰く、祖父が残した借金のかたとして、葵は大旦那に嫁入りしなくてはならないのだという。嫌がる葵は起死回生の策として、「天神屋」で働いて借金を返済すると宣言してしまうのだが…。その手にあるのは、料理の腕と負けん気だけ。あやかしお宿を舞台にした、葵の細腕繁盛記!

ペンネーム変わってますけれど、【僕の嫁の、物騒な嫁入り事情と大魔獣】や【メイデーア魔王転生記】の作者のかっぱ同盟さんです。今後はこっちのペンネームで行くってことなのかな。
定職につかずあっちゃこっちゃで女性関係や金銭関係のトラブルを起こして超問題児として知られていた亡くなったお爺さん、どうやら人間の俗世のみならず妖怪の間でも超問題児として名を馳せていたらしく、その悪名の轟っぷりたるや、思わず笑ってしまうほど。けれども、多くの人や妖怪に毛嫌いされる一方で、一方ならぬ情や恩義を感じている人や妖怪もおり、かの人物が一筋縄では行かなかったことが伺える。そんな祖父に育てられた葵は、当然祖父のような遊び人ではなく、むしろ堅実思考の地味娘……なんだけれど、この娘のメゲなさといい、大物妖怪にも物怖じしない肝の太さといい、何度も凹まされながらもそのまま沈んでいかないタフさといい、これはこれで相当な人物で、何だかんだとあの爺さんに似ている、と言われるのも無理からぬところがあるのでしょう。
さて、本作はいわゆる異種婚姻譚。しかも当人のあずかり知らぬところで勝手に結ばれた契約によって連れ去られてしまう、というパターンではあるものの、どうやら彼女の記憶にはないものの、鬼神と彼女には個人的な関係もある様子。とはいえそれはそれ、これはこれで、契約を遂行しない以上は甘い顔は出来ないよ、と突き放される中で自力で借金返済するために、あれこれ苦闘することになる葵。その過程で、鬼神が運営する旅籠「天神屋」の各部署で働く妖怪たちと衝突を繰り返しながら、段々と打ち解けていくという人誑しならぬ妖怪誑しのお話でもあるわけだ。妖怪にだってそれぞれ今まで生きてきた人生があり、苦労があり、先を望む夢がある。天神屋で働く妖怪たちにも事情や過去があり、はからずも葵はそんな彼ら彼女らの問題に首を突っ込んでいくことになるのである。とはいえ、必要以上におせっかい、というわけではなく、首を突っ込むと言っても自分からわざわざトラブルの中に踏み込んでいくほど酔狂ではないのだけれど、だからといって困っている妖怪、辛そうにしている娘らを無視して放ったらかしにしていられるほど無情ではいられないのだから、十分それで人情家じゃあないですか。押し付けがましくない、しかしそっと差し伸べられる優しさほどグッとくるものはござんせん。それに、温かくて美味しいごはんがついているなら尚更のこと。
餌付けとも言う。
情けは人の為ならず。そうして、あーだこーだと情をかけていれば打ち解けてくるものもあり、認められるものもあり、癖のある友情が成ってしまう場合もあり、つながりができれば居場所が出来てしまうものなのです。
そこから逃げ出すために頑張って、そこに居場所を作ってしまうあたりが矛盾でもあり、興でもあるのか。居場所に馴染んでしまえば、いつか離れがたくなってしまうだろうに。さて、それが仕組まれていたのだとしたら、それはそれで神算鬼謀というものなのでしょう。鬼の仕業か狐の仕業か、はてさて。

しかし、この妖怪の住まう現世から外れた隠世という世界、時の流れから取り残された古き時代の様子をそのまま残したような時代情緒あふれる場所かと思いきや、意外と現代の技術革新の概念も取り入れていて、和洋折衷ならぬ、平安時代と江戸時代と現代日本をハイブリッドしたような妙な雅さがあって、これはこれで面白い雰囲気の世界でした。電力やガスなんかのインフラがないのは当然なのですが、その代わりに妖力みたいなものを活用したコンロや冷蔵庫っぽいキッチン設備や電化製品まがいのものも普通にあったり、宿の運営も昨今のホテルや旅館のマニュアルを取り入れていたりと、この古いものと新しいものがカラフルに混ざった世界観は、個人的にはなんか凄いハマったというか気に入ってしまったというか、好きだなあこういうの。
続刊も決まったようで、若い女将さんの老舗旅館繁盛記がどうなるか、楽しみ楽しみ。