救世主の命題(テーゼ)2 (MF文庫J)

【救世主の命題(テーゼ) 2】 今井楓人/奈月ここ MF文庫J

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世界を救うため、必要な第二のテーゼは“敵対”―。滅亡する未来の地球を救うため、恋をすることによって「テーゼ」を集めることになった永野歩。歩をサポートする正体不明の美少女・ルーメは、歩が次に恋に落ちるべきはなんと、一番仲の悪い同級生、芹乃だという。はっきり言って女子全般が苦手な歩からして、現役モデルであり気の強い芹乃は最も相性が悪い相手。彼女と恋人になるなんて絶対に無理だと拒否しようにも、テーゼを巡る運命の歯車は廻っていく―。クロニクル学園ファンタジー、第二弾!
その恋が叶えば、しかし相手の恋に関する記憶は消されてしまう。遥菜との素晴らしい恋とその終わりを味わってしまった歩が、果たして次の恋愛なんかに割り切って進めるのか、と危惧はしていたのですが、なるほど次の相手を、恋なんてし合えるはずがない、と頑なに思うことのできた「敵対」のテーゼ・芹乃だった、というのは地味に上手いなあ、と首肯。仲の悪い、最初から反発し合っている相手である芹乃であり恋なんかできない、と否定から入っていたからこそ、遥菜への想いを割り切り次の恋愛に、なんて不器用で内向的でジメジメしていて未練がましい歩には普通なら到底向かえなかっただろうけれど、芹乃への敵愾心が反発心が、逆に抵抗感なく、罪悪感なく芹乃とのふれあいを育んでいくのは、意外と丁寧な仕様だったと思うんですよね。
何しろ、記憶のないはずの遥菜がもうやたらと距離感近く接してきて、恋人として接してあげられないのが辛いのなんの。遥菜も、自分と歩の間に何もないという事実に戸惑っている様子で、何も見えない空間を手探りで手を伸ばしているように、触れないものに必死で手を伸ばしているかのように、無自覚に空を掻いているような素振りがあって、なんだか凄く切なそうで見ていて苦しくなってくるのだ、これが。
恋をした結末がこれだと、辛いじゃないですか。とてもじゃないけれど、普通に次には移行できない。なにしろ、もし次に恋が叶っても、その記憶も相手の彼女から失われてしまうのだから。最初から相手の女性への好感度高ければ、まず踏み出す勇気が持てないだろう。
だからこその、「敵対」だったのだ、と考えればなるほどと深く頷いてしまうじゃあないですか。
一方で、こんな強引なきっかけがなければ、とてもじゃないけれど芹乃とお互いに内面や事情に踏み込むことはなかった、というのもわかるわけです。本来の史実において、芹乃と歩は何らお互いのことを知ることもなくそのまま苦い想いを抱いたまますれ違い遠ざかってしまっている。本来恋など生まれなかった相手。でも、そんな相手でも、やはりきっかけによって恋は芽生えるのである。
節操が無い、とは言うまい。むしろ、マイナスからでも芽吹くことのできることに、偉大さすら感じる。芹乃も歩も、決して器用な方でない。人間関係にも恋愛事にも、むしろ不器用で失敗してばかりで、つまらないことで躓き、失敗して、台無しにして、傷ついて、苦しんで、俯いてしまう。それでも、そうやってぶつかり合って、痛みを与え合いながら、お互いを紐解いていく、自分でもとけない絡まりを、触れ合うことによってお互いに解き合っていく、想いを募らせていくその繊細で優しい心の物語は、なるほどこの作者である今井さんの筆の柔らかさなんだろうなあ。
細やかな心の動きを、そして相手の心の中を思いやり、その心に届くように熱く心をたぎらせる。まさに青春である、恋の物語・ラブストーリーとはかくあるべし、というべき筆のタッチである。
そしてこの恋の物語は、始まる前から終わることを義務付けられている物語である、主人公の歩はそれを承知で進まなければならない。それが恋であると思い知った時には、もう後戻りできない。なぜなら、その人が好きだから。どうしようもなく好きになってしまったから、終わらないければならないと知りながら、前へと進む。一歩一歩、最後へと歩き続ける。
なるほど、だから主人公にその名前をつけたのか。