となりの魔王 到来編 (ビーズログ文庫アリス)

【となりの魔王 到来編】 雪乃下ナチ/ちほ ビーズログ文庫アリス

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平凡な田舎町に暮らす、平凡な女子高校生の瀬野夏織。ある日、うちの隣に引っ越してきたのは――魔王でした。全身黒いベール、肩にカラス、そして手には引っ越し蕎麦。
「つまらぬものだがお近づきのしるしぞ」「はあ、これはどうも、ご丁寧に……」
値引き品と通信販売が好き、町内会にもきちんと参加!
おかしな魔王様とツッコミ女子高校生が繰り広げる、ハートフル非日常コメディ!
ウェブ版読了済み。この作者であるナチさんの作品、大ファンなんですよね。もちろん速攻で買いましたよ。
うぬ、既に読んでいるわけだけれど、改めて読んでも面白い。べらぼうに面白い!!
実はこの作品って、尊大で威厳たっぷりで外見から立ち振舞まで見事に魔王然とした魔王さまが庶民的な生活を送るギャップが面白い、というのもあるんだけれど、この作品そのものをめちゃくちゃ面白くしているのって、魔王さまの言動ではなく、それにツッコミを入れる夏織の方なんですよね。この娘の地の文でのツッコミや語りがキレキレにセンスたっぷりで、言葉のチョイスと言い韻を踏んだリズムといい、ケラケラと笑ってしまったあとでいや上手いなあ、と思わずコクコクと頷いてしまう代物なのです。ちょいと噺家めいた軽妙なセリフ回しなんですよね。一つ一つの出来事を抜き出してみると、ほんと大したことじゃないんですけれど、魔王さまの真面目にすっとぼけた態度と、それを絶妙の言い回しで表現し、ツッコミを入れる夏織の地の文の相乗効果で、もうクスクスケラケラと笑いが止まらないのです。いやあ、この女子高生もイイ性格してるよ。魔王さまがこの田舎町でバカンスを過ごすのを街の人達は全く動じず受け止めているのだけれど、最初からそういうものとして受け止めている街の人達よりも、一旦仰天し動転し混乱した挙句にわりとあっさりと馴染んで、隣人としての魔王さまが居る日常に慣れてしまった夏織の方が、色々とおかしい気がしますw
都会と違った田舎の町特有の、ご近所サンとの生活の距離感の近さは、魔王さま云々抜きにしてもなかなか味わい深い光景だったりもするんですけどね。家でとれた野菜を配りあったり、家電が壊れたら隣の人に様子見てもらったり、学校で病気になって早退するのに、家族の代わりに近所の人に迎えに来てもらったり、なんていう距離感は今はよっぽど田舎の風景になっちゃうのかなあ。なんかお隣さんとの関係、【よつばと!】っぽいところもあって、和んだ和んだ。いや、隣の家の住人は魔王さまなんですが。

興味深いのは、この魔王さまという存在、あくまで「魔王」という存在でありキャラであって魔王である「某」という個のキャラクターじゃないんですよね。もちろん、個性的な特徴はたくさんあり、性格もくっきりしてるんだけれど、それでも「名前」はなく、「魔王」というイメージを固めたような存在なのである。それなのに、それでいながら、この「魔王」というキャラはその魔王としてのイメージだけで、この作品において一つの個としてのキャラクターとして成り立ち、キャラ立てて、縦横に動き回っているのである。これって、地味にすごいと思うんだけどなあ。

あれこれと慣れぬ人間世界での生活に不都合を催す魔王さまを何くれとなくサポートしているうちに、いつの間にか魔王さまの参謀に任命されてしまった夏織。参謀としての仕事は、主に世間知らずの魔王さまの生活サポート、ってそれまでとあんまり変わらない、女子高生と魔王の田舎の夏の日常コメディー。
絶賛、全力でおすすめであります。
いやもう、大好きですわ、これ。