乙女な王子と魔獣騎士 (電撃文庫)

【乙女な王子と魔獣騎士】 柊遊馬/久杉トク 電撃文庫

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王への復讐。それが全てに勝る、少年ジュダの目指すもの。異端な種族の生き残りであるジュダは、母を処刑した王に近づくため、王都で騎士生をしている。桜竜の吐息吹く、エイレン騎士学校。力を隠し怠惰な生徒を演じるジュダのクラスに、眉目秀麗な王子ラウディが転入してくる。突然の仇敵の登場に、暗殺の機会を窺うジュダ。だが偶然にも、ジュダは知ってしまう。ラウディの本当の姿は“女の子”だということを…。真実を知っても態度を変えないジュダに、ラウディは次第に心を寄せるように。そして、ジュダもまた…。殺すのか、愛するのか。決して結ばれてはならない二人の運命が今、動き始める。
王子様が実は男装したお姫様だった、という展開において、その性別を主人公が偶然知ってしまうイベントは必須のものだけれど、これほど身も蓋もないバレ方をしたケースは珍しいなあ。後書きを見ると、元々は男と偽っているわけでもない普通のお姫様だったようなので、特にこのへん勿体ぶるつもりもなかったんだろうけれど。
しかし、この主人公はなかなか面白いですね。復讐者というと、もっとメンタルを固執に抉らせているものなんだけれど、彼は既に一度、感情に任せて動くとより大きな悲劇を生んでしまう、ということを体験している。
自分を匿ってくれた亜人たちが、一族の一部の若者の感情に任せた短慮から、惨たらしい結末を迎えてしまったことから、怒りや憎しみに囚われて理知を失えば、さらに多くを失ってしまう、というのを深層に叩きこまれてしまったわけだ。だからか、彼は復讐者であることは辞めないまま、どこか一歩退いた俯瞰した視点を持ってるんですよね。自分たちを見舞った悲劇が、なぜ起こったのか。それを、頭の片隅で常に考えている。誰が悪いのか、何が悪いのか。もちろん、自分の母を殺した王に対しての恨みつらみは忘れられず、憎しみを滾らせながらも、それを個人の怒りだけに留めず、理不尽な社会への怒り、公の問題の中に捉えている。
母の仇をとる為に行動しながら、それ以外は自分には関係ない、と思わずに、心の何処かで今の世の在り方を正さなければならない、と思っているわけだ。亜人や、自分のような「人外」な存在が理不尽な目にあう世の中が許せないんですね。
ともすると、彼の憎しみ、恨み、復讐心というものは、実のところ母が殺された事にのみ起因するわけじゃないことがわかってくる。彼が本当に憎んでいたものとは、母が殺された事実だけじゃなくて、母が人ではなく、呪われた魔獣として、人々に恐れられ憎まれ蔑まれ罵られて死んでいったことだったのではないだろうか。人としての死を与えられず、人として扱われず、獣として、バケモノとして、邪悪として、世に仇なす大敵として、理不尽に殺されたことが根源だったんじゃないだろうか。その所業の象徴が王であった、と。
ところが、偶然出会った仇の娘であるラウディは、知れば知るほど自分が厭い憎み怒りを抱いている世の理不尽を、同じように理不尽と捉え、それを憂い、なんとかしたいと思っている少女だった。私人としては好ましく、公人としてもまた自分が望む方向を、同じように向いている。
これで、ジュダが復讐に固執しているような、囚われた人間だとここで色んなものに挟まれて歪んでしまいかねないんだけれど、彼はその点、すごく素直だったんですよね。感情と理知のバランスがうまく取れている、というべきか。自分の感情、気持ちに対して嘘をつかない、という意味ではとても感情的であり、同時に感情に任せて現実から目を背けない、という意味ではとても理性的な人物であったわけである。
これで、あっさり復讐心を捨てられるほどキレイ事に身を任せられるような男ならつまらないんだけれど、そうした負の感情を捨てずにちゃんと滾らせているあたり、面白い。それはそれ、これはこれ、と割り切っているというか、なんというか。色んな意味で、けっこう図太い男なんじゃないだろうか、この主人公くんは。いやあ、性格悪いよなあ、ひねくれてるよなあ。反省はしても後悔はしないタイプだし。
これって正体が露見した時に悩み葛藤するのって、彼じゃなくてラウディの方っぽいんですよねえ。ジュダは、バレたらバレたでむしろどうするかラウディに迫るタイプに見えるし、いやそれとも選択肢は与えないか。迷うにしても、割り切り早そうなんだよなあ。そのあたりの、キッパリとして決断や覚悟が早そうなところも、彼の魅力である、ある意味痛快であり、復讐者でありながらサッパリしている要因なんでしょうけれど。
優柔不断な主人公も、ヒロインにとっては大変だし面倒なんだろうけれど、強引でわりとはっきりしている主人公も、それはそれでヒロイン大変そうですよね。ってか、ラウディこれ苦労する相手に惚れて、惚れられたよなあ。自分から構っていった結果なので、自業自得なのですけれど。