GENESISシリーズ 境界線上のホライゾン (8)下 (電撃文庫)

【GENESISシリーズ 境界線上のホライゾン 8(下)】 川上稔/ さとやす(TENKY) 電撃文庫

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「――明智・光秀の襲名権を、武蔵側へと譲って頂く事は可能だろうか」
 本能寺の変の歴史再現に介入を狙う武蔵勢。生徒会副会長、本多・正純は、首謀者、明智・光秀の“代行”を提案する。だがそれでは明智・光秀となった武蔵の生徒がその後の歴史再現によって失われてしまうのは必定。……正純に勝算はあるのか? 未だ姿を見せない現、明智・光秀は正純の提案に応じるのか――?
 夏休みも終盤になり、己の立ち位置を再確認する世界各国。賤ヶ岳の戦いへ向け研鑽する羽柴十本槍の面々、羽柴と武蔵の動きを見守る欧州主要国、そして未だに動きを見せないP.A.Oda……幾つもの思惑が交錯し、事態が思わぬ答えを導く――! 第八話クライマックス!!
ついに、というかとうとうというべきか、ミリアム・ポークウが表紙である。いつもは表紙裏に表のキャラクターの元になった歴史人物について語っているのだけれど、今回はどうしてもネタバレになるから、とミリアムが座っている車いすの話に終始していて、当人のついては一切触れられていない。そう、この巻に至ってもまだ彼女の正体についてはまだ謎のままなんです。彼女の元々の出自などは彼女の口からちょろっと語られてるんですけれど、まだこれ彼女が何者かについては絞りきれんよなあ。ただ、創世計画や公主隠し、謎の教導院など、織田・羽柴一党の最終目的、内裏と帝の秘密など、この8巻で一気に明らかになってきた情報をとりあえず遠くに置いて、そこにミリアムのことも一緒に置いて眺めてみると、彼女の正体はともかくとして彼女が何の役割を求められているのか、については何となく見えてきた気がする。これも、想像なんだけれど。でも、なんで彼女が武蔵に乗っていたのかがいまいちわかんないんだよなあ。ホラ子パパの仕込みではあるんだろうけれど、状況はどうやら彼の想定を逸脱しつつある、と幾人かは言及しているわけだし。
でも、彼女についてはね、もう東に任せましょうよ。とっくに夫婦同然だった二人ですけれど、ミリアムがあんなにもはっきりと言葉と態度で示してみせてくれたのには、キュンキュンしてしまいました。色々彼女は今後の展開について覚悟しているのかもしれないけれど、諦めてはいないというのがわかりましたし。それ以上に、心から東を信じているというのも伝わりましたし。
「私を忘れないで、追ってきてね」
ここまで言われるのは男冥利というものですよ、余。

思わぬデレと言えば、ホラ子が本当に珍しく直球ストレートでどまんなかに放り込んできたんですよね。この娘、基本的に危険球しか投げてこないのに。キャッチボールと言いながら、鉄球かボーリングの玉を全力投球して殺しにかかってくるくらい厳し目の子だったのに、思わず目を剥いて唖然としてしまうほど、普通の恋人みたいなことをしちゃって。びっくりですわー。なにこれ、クライマックス直前なの? いや、直前なんだけど。
でも、確かにトーリ、ここ最近見違えてるんですよね。まだ結婚していないはずなんですが、所帯を持った男のように落ち着いたというか、腰が据わったというか、子供から大人になったというか。不可能男の大馬鹿者という基本は変わらないまま、嫁さん三人をしっかり抱えられる大黒柱的な雰囲気が出てきてしまったような気がします。同時に、王様としての方向性も定まった感があり。いえね、最初から彼はブレてないんですけれど、王様として大きくなったなあ……と。今回、ネイトママがトーリの王様としてに本質について語っているんだけれど、それが非常にわかりやすくて、なるほどなあと得心したんです。
正しいかどうかより、幸いかどうか。

正しいとか悪いとか、出来るとか出来ないではなく、幸いであるかどうか、だ。

彼とともに歩めば、彼の指し示す方に進むなら、彼を支えて行くならば、きっとみんなが幸せになれる道をみんなで選ぶことが出来る。その信頼感が、彼を王様にするのだ。
だから、みんなが幸せになれるように、世界を征服してしまおう。みんな幸せになるために、戦争しようぜ、戦争♪
本能寺の変に介入して、織田・羽柴勢の歴史再現を止めるために……何故か明智・光秀に成り代わって本能寺を攻める配役を奪取しようというのは、実に華麗なる「戦争しようぜ」だと思うんですが、これ如何にw
ちょっと前まで、どう理由こじつけて本能寺の変に首を突っ込もうか、という話をしていたはずが、手とか首どころじゃなくて、もう一方の主役になっちゃってるんですが、これこれw
これでちょっかいかけるどころではなく、羽柴勢との正面対決突入ですよ。凄いな、正純。みんなが煽っているからではなくて、ガチに戦争に持ち込む能力は戦国最強なんじゃないだろうか。

と、話は少し戻るのだけれど、ようやく登場した明智・光秀。相変わらずデザイン、予想をぶっちぎりますなあ。もっと身なりも性格もきっちりした人だと思ってたんだが……まあ、そういうタイプ、この作品では希少生物なんですけど……いやある意味、彼はすごくきっちりした人だったと考えることも出来るんですよね。秀吉からすると、裏切りになるのかなあ。でも、自分で言っているようにこの人はみなに対してフェアでありたかったんでしょうね。だから、彼は陣営としては織田に属していたけれど、此処に至るまで元康たちの側であり、同時にその最後の人間として、状況にそぐわなくなりつつあった自分たちが敷いたルートを一旦打ち壊し、全員に対して自由な選択を示してみせたわけだ。
この、後は任せた、というのは他にも随所に散見できるんですよね。あの【終わりのクロニクル】の四号さんを彷彿とさせる、自動人形「冷泉」こと十八番。そして、どこぞの謎のヒーローのように一番いい所で一番イイ武器をさらっと送ってくれたあの人。某教皇総長!! 某教皇総長、影だけとはいえかっこよすぎます!!
他にもラストシーンを飾ってくれた海野さんのあのシーンも、なんか新婚生活堪能している北条・氏直にしても、後事を託してるんですよね。柴田先輩が可児にしていたことも、おそらくきっと。
託された想いが、今羽柴と武蔵に収束していっているのがわかる。

久々登場の三征西班牙も、広義としては同じなんじゃないかと。今回、傭兵として武蔵と戦うことになった彼ら。以前の戦いの時とは違って悲壮感なかったのは気のせいじゃないと思う。当時と立場や彼らが置かれた状況が違うとはいえ、白虎から朱雀に教導があったり、野球部の最後の夏があったり、メアリが三征西班牙との関わりが理由の一つとしてある三百人切りについてのケリだとか、何よりフアナさんの決着と贈り物。なんか、色々とたくさん預けられたなあ、と。一番大きな預かれものはきっと、立花夫妻なんでしょうけれど。ってか、この夫婦、一番はしゃいでたんじゃなかろうか。

クライマックス、最終局面がいままさに目の前に迫っている、そんな雰囲気をひしひしと肌で感じさせられる、夏休みの終わりでありました。

シリーズ感想