ヴァリアント・エクスペリメント (C・NOVELSファンタジア)

【ヴァリアント・エクスペリメント】 あやめゆう/ マニャ子 C・NOVELSファンタジア

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被験者諸君、異能実験へようこそ。ルールは簡単。渡されたカードを奪い合え。ゴール地点でのカードの数に応じて賞金が出る―孤島に集められた異能者たち。携帯情報端末に示される位置情報と使い魔の異能感知能力のみを頼りに、命懸けのバトルが始まった!初めて出会う同類との戦いに快感を覚えるマコトは…。ノンストップ・バトルアクション!
こういうバトルロワイヤルな舞台設定ってコンテンツとしてやりやすい類のものだと思うんだけれど、意外と少ない気がするなあ。単発モノとしてはともかく、シリーズものだと第一作目で一旦終了してしまうと続編ではまたバトルロワイヤル、とはいかないからだろうか。東出祐一郎さんの【ケモノガリ】なんかでも、二作目からはその辺変わってきましたしね。
本作が面白いのは、これ主人公が追われる側ではなく終始食い散らかす側に立っていたことだろうか。異能者同士によるバトルロワイヤル、ということで参加者の誰もが力と武器を持っている状態である。いわゆる一方的に追われる弱者が居ないとはいわないけれど、非常に少ない舞台設定なんですよね。ヒロインである芦屋悠里からして、抗う牙は持ち合わせている。
でも、異能者揃い、バケモノが揃ったバトルロワイヤルでありながら、この異能者たち、こと戦うことに関しては本当のド素人ばかりなのである。身を持ち崩して裏社会に身を投じていたりアングラに転がりおちていたりする者は居て、いわゆる喧嘩慣れ、殺し慣れしている者たちは居るものの、その彼らですら自分の持つ異能をなるべく隠し、人間社会の中でひっそりと生きてきた、という経歴の持ち主ばかりで、自分の異能の扱い方に長けているわけではなく、本当の意味で「戦う」という経験は持ちあわせていないものばかり。
なので、異能を駆使したバトルロワイヤル、という様相ではなく、異能を持った素人たちが初めてその能力を好きに使える状況にテンション上がりすぎて、狂躁状態のまま行き当たりばったりの出会い頭に殺しあう、そんななかなかに目も当てられない状況になってしまっているのだ。これは主催側も予想外だったようで、もうちょっと生き残るため勝ち残るための駆け引きや戦略、策略や謀なんかが張り巡らされる、と思っていた節もあったようで、まさか総員「ガンガン行こうぜ」になるとは思ってなかったんだろうなあ。異能を使わないように密かに生きてきた鬱憤の強さや、ド素人の状況の見通しのなさを完全に見誤っていたようで、このあたりの誤算については素直に言及されている。
と、そんな中で「ガンガン行こうぜ」という方針は変わらないものの、他の参加者とどうも根本からパーソナリティが変わっていたのが、主人公である式条丹女史である。もちろん、彼女がプロのコマンダーだった、なんてわけではない。普段の彼女はなんでも屋という探偵というにはいささか肉体労働が多そうな仕事をしている姉ちゃんに過ぎず、決して荒事の経験が多いわけではない。
にも関わらず、異能者という名の「一般人」ばかりの参加者の中で、彼女は突出して異常なんですよね。メンタリティがイカレている。能力のあるなしなど関係なく、このバトルロワイヤルにおける数少ない本物の「バケモノ」、捕食者であるのが彼女、マコトなのである。主人公にも関わらず。
このあたりのキャラクターの描き方は、あやめゆうさん特有の、つかみ所のないイカレ具合で、この人の描くキャラが好きな人はまずストライクであろう。倫理観や自分の中のルールというのが、完全に他人や社会から独立しているのが特徴、というべきか。傍から見ていると、いっそエグいと言っていいくらいの為さりようで、暴君とも傲岸不遜とも取れるんだけれど、決して非情ではないんですよね。最初の方のなさりようはさすがにこれは酷いよなあ、とドン引きしたもんだけれど、その件については最後に見事にひっくり返してくれて、「そうだったのか!」とサプライズくらって、ちょっと安心いただきました。マコト姐さん、容赦の欠片もないひとだけれど、無情でも非情でもないんですよね。割り切りキツイけど、トータルでみたらわりと優しい情があるタイプに見える。
しかし、それでも彼女こそ肉食獣であり、捕食者なのである。このゲームの参加者は哀れな駒であり、愚かな生贄であり、どうしようもない実験動物に過ぎないはずだったにも関わらず、最初から最後まで彼女だけは完全に自由であり、食われる側ではなく食い散らかす側であり、全部見通した上で悠々と敷かれたレールの上を闊歩した挙句に、軽やかにレールから外れて安全地帯に設定されていたはずの領域に飛び乗って、あの不敵な笑みで睥睨してみせてくれるのだからたまらない。
まったく、心の底から好き勝手してくれちゃって、楽しそうで幸いである。