ヴィランズテイル 有坂有哉と食べられたがりの白咲初姫 (ファミ通文庫)

【ヴィランズテイル 有坂有哉と食べられたがりの白咲初姫】 綾里けいし/リラル ファミ通文庫

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「私を、食べて欲しいんです」怪物の安寧を壊したのは“食糧”志願の少女だった――。

食糧と書かれた宅配便に入っていたのは『淑女』と名高い同級生、白咲初姫だった。姉を殺し内臓を食べた人物に自分も食べて欲しいという。彼女は『有坂家【モンスターファミリー】』次男である俺、有坂有哉が犯人だと言い、自分を食べろと居座り始めた。折しも俺は兄妹の部屋から誰かの内臓と手首を見つけてしまい……。それでも俺は家族を推定無罪とし、平穏を守るべく、初姫が納得する別の犯人探しに乗り出すが――。青春を生き抜く悪役たち【ヴィランズ】の学園ミステリアス・エンタテイメント!
これは見事にミスリードされたじゃありませんか。有坂家の面々の異常性って、最初なんかキャラ作っているみたいな浮いた滑稽さを感じていたんだけれど、有坂家にまつわる真相が明らかにされてから彼らの言動を振り返ると、途端にぞっとするほどの生々しさを鼻面に突きつけられる。彼らがそうであることに、迫真を感じてしまったのである。その、なんとおぞましいことか。納得、得心、腑に落ちる、本来そんなもの、感じてはいけない領域に至っているのに。
これが怪異譚だったなら、異能ものだったり、伝奇ものだったりしたならむしろ救いがあったのかもしれない。「早く人間になりたい」という願望は、人間でないからこそ願えるのだ。ならば人間でありながら人間になれなかった者は。人間にしてもらえなかったものは、どうやって人間になればいいのだろう。
真っ暗な闇を覗いてみたつもりが、そこにあったのは闇どころではない底なしの深淵だったなんて、笑い話にもなりゃしない。滑稽を通り越して凄絶ですらある。主人公の有哉が殊更脳天気に、楽天的に、享楽的に、どんなグロテスクな事柄も浅薄に、冗談交じりに、茶化すように語る姿は、最初は随分と安っぽくみえたものだったけれど、今にして思えば必死さすらうかがい知れる。ともすれば切れ落ちそうな均衡を、辛うじてそうやって保っているような、そうでもしなければ容易に脆く割れ砕けてしまいそうな、危うい瀬戸際を綱わたっているような、そんな気すらしてくるほどだ。
だからこそ、そんなヒビ割れたガラスみたいなところに、釘バットをブンブン振り回しながらスキップして突っ込んでくるような初姫のアプローチは、今にして思うと無茶苦茶で、どれだけ有哉が肝を冷やしたか寒気がしてくるほどである。でも、面白いことにそんなずかずかと踏み込んできた初姫の遠慮のなさ、傍若さこそが有哉の冷えた肝を、逆に据わらせたと言えるのかもしれない。危機感こそが、尚更に彼に覚悟を決めさせたのかもしれない。愛していても信頼出来ない家族の中で、自分を含めて誰も信じられない中で、そんな彼女だけが信じられたのか。初めて、信じる人が出来たのか。悪役でしかない自分たちに、人間の中に居場所のない自分に、初めて安らぐ場所を与えてくれた人。
何の事はない、これもまた、これほどにグロテスクで人間のもっともおぞましい部分をさらけ出す物語でありながら、異常にして異端にして破綻して既に破滅した怪物たちの末路でありながら、
眩しいくらいに綺麗なピュアラブストーリーなのだ。
底なしの深淵に首まで浸かった救われようのない悪役たちの話でありながら、彼らが幸せを求めて良い物語なのだ。
さあ、目指すは極々平凡な日常のごときハッピーエンドだ。

綾里けいし作品感想