成り上がり英雄譚 屑星皇子の戦詩 (HJ文庫)

【成り上がり英雄譚 屑星皇子の戦詩】 ハヤケン/フ子 HJ文庫

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役立たずの烙印を押された“屑星”の逆襲が始まる!

大陸全土の統一を目論む大帝国に生まれし第五皇子ラウル。彼は国家の象徴たる宝具を扱えないという欠陥から【帝国の屑星】と見下される存在であった。それでも腐らずに自己鍛錬を重ねたラウルは、やがて政略結婚の駒として、小国の美しき姫君の下へ婿入りするのだが――それこそが反撃の狼煙。
今ここに、少数精鋭を従えた屑星の快進撃が始まる!
うわー、凄い理想家なんだな、この主人公。しかも、薄っぺらな理想主義者ではなくて、自身は極めて厳しい環境で虐げられ続けた中で克己心を強く保ち続けて努力を続けて文武に長じた人物なのである。その努力の根拠が、庇護者として自分を助け、導いてくれた尊敬する兄の遺志を、彼が抱いた気宇壮大な理想を引き継ぎたい、という想いからなのだという。
この長兄への憧憬、尊崇に近い念、その彼が喪われてしまったことへの無念、絶望、悔しさがラウルの原動力となっているわけだ。兄の理想を自分が実現することで、兄の偉大さを証明したい、兄の夢がどれほど素晴らしかったのかを世に示したい、自分の大好きな兄さんはこんなにも凄かったんだ、というのを世間の人々に知らしめたい、そんな証明欲求がラウルの言動から窺い見ることが出来る。もちろん、兄の理想への共感、それを実現することによって人々を幸せにしてあげたい、という善性の気持ちももちろんあるんだけれど。
でも、でもですよ。すごく意地悪なことを言ってしまうと、この手の理想家って理想と現実とのギャップに酷い目に合うか、耐え切れずに惨劇を振りまくタイプに見えるんだよなあ。
ふと、【流血女神伝】のドーン兄が脳裏をよぎってしまったんですよねえ。
わりと底辺から這い上がった人というのは、怠惰や現状維持、有言不実行、不満ばかり口にして行動しない、日和見的というような、底辺に甘んじる考え、何もしようとしない動きに対して感情的な拒否感を抱きやすいですしねえ。意外と、底辺の人間と想いを共有できなかったり、共感を抱けなかったりするんですよね。
一般市民、それも被支配者層、無形の民衆。この群体の危うさを、理想主義者は古の昔から古今東西見誤り続けている。期待を裏切られた時、果たして人間はどのような感情を抱くのか、どのような選択をしてしまうのか。
特に、ラウルの場合はその理想の根本が、敬愛し尊崇している兄が思い描いたもの、という理想を神聖視するに足る理由があるわけで……うん、この手の主権の移譲って穏当な形でまともにうまくいった試しがないし、さらに民に相応の教育が施されているわけでも、一部でも議会などの政権に参画しているわけでもない、という下地らしい下地すらない状態なものですから、もしかすると帝国内での権力掌握や大陸統一よりも、その後の方が血みどろの泥沼な状況に陥りそうな要素ばかりが思い浮かんでしまって、肝心の虐げられていた王子の躍進の物語よりも、むしろ本編が無事完結した後のハッピーエンドのその後のダークサイドのネタばかり気にしてしまって、いやいやこういう仄暗い連想ばかりしてしまうのはヒネすぎているという自覚はあるんですが(汗
むしろ、そっちサイドに物語がなだれ込んでいってしまったら、いったい誰得なのかわかりませんけれど、私はゲヒゲヒ喜びます、きっとw
意外と少女小説に一昔前はそういう作品が多かったのだけれど、最近そっちアンテナ立ててないんだよなあ。

作品の感想としては随分と的外れなものになってしまって、冷や汗が流れるところなのですが、たまにこういう無軌道なベクトルに筆が向いてしまうことがあるのであしからず。あと、結婚したのに手を出さないのは、むしろお嫁さんに対してド失礼だと思うんだがなあ。

ハヤケン作品感想